「頼んで頼まれ 迷惑を掛け合わないと 友達になれない」
                                                                     教授 倉田光春

 近頃,頂いた静岡茶を飲んでいる。美味しいのだが如何(どう)淹(い)れても甘みが少なく苦い。
静岡では渋くて濃いのが良いらしい。しかし,何と言っても嬉野(うれしの)茶(ちゃ)が好きだ。
ほのかに甘みがあり,素朴で実に美味(うま)い。人の紹介で,老夫婦がつくるお茶を送って貰(もら)い
常備(じょうび)している。人柄が出ていて素直でやさしい。同じように淹(い)れても何か足りない。
淹(い)れて貰(もら)うと何とも言えず美味(うま)くて幸せである。長い付き合い,便りで「何かの
折りに寄って下さい。」と幸せを頂いていたが実現していない。お茶一筋,十分に掛けた手間と労力,
本当に有難く感謝である。一回一回美味(おい)しく頂かねば。
佐賀嬉野は温泉とともにお茶が有名,温泉街から離れた,山の斜面にたくさんの茶畑があるという。
 迷惑掛けっぱなしの俳人山頭火,曰(いわ)く

    嬉野はうれしいところ 湯どころお茶どころ
    草鞋(わらじ)ぬぐには良いところ
    炭起こして,静かにお茶すする
    筑後屋 落着いたよい湯よい宿
    朝湯朝酒勿体(もったい)ない 俳句に遊び 酒に遊ぶ
    この道や 幾人(いくたり)行(ゆ)きし 今日我は行く
    苦しいみち 楽しいみち 凄(すご)いみち
    無理するな あせるな いらいらするな
    なるようになれ ばたばたするな 流れるように流れてゆけ
    うそらしいうそはよい うそらしいほんとうもよい
    ほんとうらしいうそはよくない 
    ほんとうらしいほんとうをいいたい
    清く,正しく,美しく 
    すなおに つつましく
    我が心 水の如くあれ  我が心 空の如くあれ

 今はなき頂(いただ)いた幸せに,茨城の手づくり菜種油(なたねあぶら)と福島双葉の蜂蜜がある。
黄色い天ぷら幾らでも,癖(くせ)がなく,程好(ほどよ)い甘味,もう口にできない。亡くなられた
り,やれなくなったり残念無念。家族の幸せを祈り,長きに渡る暖かな好意,決して忘れない。
今も頂いている幸せは,年一度の山形のサクランボ,農(なりわい)としていたお父さんの代から
続いている。最近では三春のブルーベリーが美味しい。ジャムをつくったり,楽しんでいる。家族
と親族用のお米なども分けて頂いたりして,親切にしてもらっている。フランス料理のコートドー
ル,自然食のとみやさんなどなど。幸せな食卓はこの人達のお陰,美味しいもの有難う。決まって
皆(みんな)素朴で一生懸命,本当にいい人達である。  
 本気で得ようとするときは,何かを捨てねばならず,その痛みを伴うもの。人それぞれであるが,
大切で大事にしたい貴重なもの,食してなくなるものでも,それは一朝一夕に,そう簡単にできる
ものではない。より良いものを得たいと思えば,その思いを伝えるため,手間と労力が勿論(もちろん)
予定外の費用が嵩(かさ)むもの,より良いものを提供したい思えば,当然必要以上に手間と労力
そして費用が嵩むものである。より良い満足の行くものを得ようとしたり,創ろうとすればするほど,
ある意味必要以上に互いに痛みを伴うものである。手間と労力を惜しみ,予算をケチり妥協すれば痛
まず,手間と労力を削り,費用が倹約できれば痛まず,共に良かったとも言える。だが,得たり提供
したりするものが安きに流れ,財にならず,対価として満足できないのは当然である。より良いものを
創ったり,身に付けようとすれば,CAD研修のように手間と労力,そして思った以上にお金が掛かるもの。
 教育も然り。学生は,学ぶことに手間と労力を惜しまず,資料などに十分お金を掛けたとき,初めて
学力と思考能力そしてその技術が身につくもの。教師も同様。講義に,演習・レポートの評価と返却に,
十分に手間と労力を掛け,さらに資料などにお金を掛けたとき,学生に教え教えられ,教育力が身に
付くものである。ある意味,双方が共に痛んで,頼り頼られ迷惑掛け合って初めて真の教育の成果が
上がるもの。それは互いに痛むけれど,その痛んだ分,掛替えのない幸せが与え与えられる。
 学生と共感できる年の頃,苦楽苦楽(くらくら)人(にん)と称する小冊子を学生とともにつくった。
今思うに,何とも恥ずかしい限りで赤面する思いである。しかし,若さ故の幼さと自由な気持ちが
溢(あふ)れていた。苦あれば楽あり,楽あれば苦あり,自由で,共に学び遊ぶのが楽しく,頼んで
頼まれ互いに迷惑を掛け合っていた。学生もMy family。お陰で娘に「学生さんの方が大切なの!」
と言われる始末。とんでもない。家族が一番大切に決まっている。そうは言うものの。家族や親戚が
沢山いるときは何やっても楽しかった。亡くし,昨年亡くして,今亡くそうとしている。