就職を意識して自分力を高めよう
教授 千葉正裕
■学力よりも人間力■
就職氷河期が終わりつつある今,バブル並みの採用動向が期待されています。しかし,
景気が回復傾向にあるからと言って,すべての企業で採用枠を広げているわけではありま
せん。
人材を確保することは,企業にとって大きな投資の一つ。ただ単に人手を補うためだけ
ではなく,企業の生き残りをかけて採用に踏み切っている場合がほとんどです。もちろん
中途採用者のような即戦力を求めることはないにしても,その会社で活躍できる素養や可
能性を持った人材を見つけるために,採用にあたっては,成績よりも人間性,履歴書より
も面接を重視する傾向にあります。
そこで必要になってくるのが,人間としての魅力,すなわち人間力です。人間力という
のは,社会的なマナーや,人と接するときのコミュニケーション力,TPO(Time Place
Occasion)を考えた身だしなみなど,より円滑な人間関係を築いていくうえで必要不可欠
なものです。
人間力をアップするためには,人として“できて当たり前のこと”を日頃から実践して
いくことが大切です。例えば,目上の人に友達言葉を遣ったり,簡単だからという理由だ
けで,どんな用件もメールで済ませたりはしていませんか。マナーにしても言葉遣いにし
ても,ふだんから気をつけるようにしていれば,就職活動で慌てる必要がありません。
ある企業では,面接の前に簡単なアンケートを実施しているのですが,人事担当者によ
ると,当日の日付を何も見ないでスラスラと記入している学生は,評価がプラスになるそ
うです。
大切なのは,日常の自分です。日常の自分が,就職活動での自分になり,就職活動で得
たものは,すべて社会に出てから役立ちます。ほんの少しの心がけで,就職活動がぐんと
スムーズになるはずですから,学生諸君も自分の人間力に磨きをかけていきましょう。
■行動につなげる能力■
大学生活の中では,「自分はこれをやった」と自信を持って言えるようなものを見つけ
ることも大切です。ナンバーワンよりもオンリーワンとはよく言ったもので,いわゆる
“一芸を持った人”が有利になる場合が多く見受けられます。
よい人材には,内定が集中するものです。研究でもよいし,サークルでもよいし,語学
(英語)でも構わないので,自分の中に何か一つ「これをやった」というものがあると,
大きな自信につながります。
ちなみに最近は「コンピテンシー(competency)面接」というものを取り入れる企業が増
えてきました。直訳すると「能力」ですが,ただの能力ではなく,「行動につなげる能力」
――言ってみれば,成果を上げる(結果として何かの結論を見出した)行動をこれまでに
“したことがある”か,あるいは“している”かが問われるものです。
大学生活の中で,自分のオンリーワンを見つけるためには,日常的に「見て,聞いて,
感じて,行動する」ことが大切です。まずは行動しなければ,何も生まれません。常に就
職を意識しながら,大学生活を送るようにすることで,自分自身の新たな可能性が見えて
きます。
■就職はお見合い結婚■
就職は結婚,特にお見合い結婚にたとえることができます。学生と企業が実際に出会っ
て,お互いに十分理解し合うことにより,初めて成り立つものです。その意味でいうと,
第一印象だけで入社したり,単に「好きだから」という理由で入社するのではなく,相手
のことをよく見極めることが重要です。業界研究や企業研究と呼ばれるものがそうです。
業界研究や企業研究にあたっては,常に変化し続けている社会状況にアンテナを張りなが
ら,現状だけではなく,今後の業界・企業動向まで見極めるようにしてください。昨日の
勝ち組が,今日には負け組になってしまったなんていうことが,現実に起きている世の中
ですから。
最近は企業の採用活動も早期化・多様化しているため,早い段階から就職活動の準備を
始めることも大切です。夢を形にする仕事に就きたい――。そんな想いから,建築学科を
志した人も多いでしょう。施工管理の仕事に就いた卒業生からは,建物の基礎から完成ま
で携わることができるので,「自分が造った」という実感が湧き,やりがいを感じ,大変
だけど充実して楽しいという話をよく聞きます。現場がキツそうだから他の仕事がいいと
か,実家から通える仕事だから等の事由を優先した人からは,思い描いていた仕事との
ギャップに悩み,苦労しているとの相談を受けることもあります。
君たちにとって,就職はゴールではなく,むしろ新たなスタートラインです。そのスター
ト地点を自らの力で切り開いていくのが就職活動です。大学生活の中で,できるだけ早い
段階から就職を意識し,自分だけの人間力である「自分力」をさらに高めていってください。
(就職指導副委員長)
|