『ネットワーク社会に生きるために』
助教授 浅里和茂
最近,犬や猫などのペットを飼える「ペットマンション」が人気であると聞く。従来
21年前にウィリアム ギブスンが著した寓話は,ひとつのムーブメントを起こしたが,
誰も現実に起こりうるとは思わなかった。いま,ウォシャウスキー兄弟の撮ったフェア
リーテールは,以前より違和感無く受け入れられ,その一部分はひょっとしたらという
雰囲気さえある。アイスがエージェントに,モリィがトリニティに変わり,CGも劇的
に進歩した。そのおかげか,パンクは棘がとれてパンクではなくなった。奇妙なのは
ジョニーもネオも同じ役者だということ。
2003年5月26日18時24分ころ,宮城県北部の太平洋沖,深さ70kmを震源とするマグニ
チュード7.0の三陸南地震が発生しました。幸い25年前の宮城県沖地震のような大きな
被害はありませんでした。その理由としては,都市部から震源が離れていたことと宮城
県沖地震を契機に策定された新耐震設計法により建築物の耐震性が向上していたことな
どが挙げられると思います。不謹慎な言い方かもしれませんが,新耐震設計法の貴重な
実証の場となったことは確かです。地震のメカニズムとしては,北米プレートに潜りこ
む太平洋プレートの境界部分の破壊ではなく,太平洋プレート内部の破壊によるもので
した。通常,一度地震が発生すればエネルギーが開放されて地震危険度は下がりますが,
今回の震源は宮城県沖地震の震源域からはなれているため,危険度は下がっていません。
今後20年間での発生確率は80%以上となっていますから依然として注意が必要です。
ところで,ここ数年テレビの地震速報が多くなったと感じていないでしょうか。日本
全国のどこかで地震による揺れを感じると,発生から数分のうちにまず地域の震度が発
表され,さらにその数分後,より詳細な震度が報道されます。これが可能になったこと
には2つの要因があります。1つはそれまで人間の感覚に頼っていた震度の測定を機械
化したこと,もう1つはこれらの測定器が気象庁とネットワークで結ばれたということ
です。
早い時期に地震動の観測とネットワークを結びつけたシステムとしては,平成4年3
月からJR東海が東海道新幹線の運行制御に使っているユレダスがあります。ユレダス
とは地震動早期検知警報システム(UrEDAS:Urgent Earthquake Detection and Alarm
System)のことで,地震の主要動である横揺れ(S波)より先に到達する縦揺れ(P波)
を検知して,コンピュータで地震の規模や震央位置を推測し,送電を停めることで新幹
線を緊急停車させます。
気象庁ではさらに進んでJR総研と共同で「ナウキャスト地震情報」を実用化にむけ
て研究中です。通常,震源やマグニチュードの決定は,地震による揺れが治まってから
行われていましたが,「ナウキャスト地震情報」では,揺れている最中からこれらの計
算を始めてしまおうというものです。JRのユレダスと同様にP波が最初に到達した観
測点の揺れの情報から地震の諸性質を推定します。その後,複数の観測点にP波が到達
すれば複数の揺れの情報が得られ,精度・信頼度が高くなり,震源,マグニチュードさ
らには各地の震度も予想できるようになります。これらの情報を本格的な横揺れ(S波)
が到達する前に,交通機関,発電所,プラントなどに提供できれば,安全に停車させた
り,運転を停止したりできます。日常生活でもテレビやラジオの緊急放送で「まもなく
大きな揺れが予想されます。机の下などに隠れてください。」と流れるかもしれません。
高速なネットワークと処理システムがあればこそ実現可能な近未来の地震対策といえる
でしょう。
さて,建築に目を転じると,構造解析にコンピュータを利用することは,以前から一
般的に行われてきましたが,最近では構造以外のさまざまな分野でもネットワークとコ
ンピュータがあたりまえのように使われています。例えば建築CALS/ECというも
のがあります。CALS(キャルス)とは「Continuous Acquision and Life-cycle
Support」の略で日本語訳は「生産・調達・運用支援情報システム」で,ECは「Elect-
ronic Commerce」の略で「電子商取引」の意味です。建築の企画から施工さらに保守に
いたるまでの情報を電子化して流通させることにより,完成までの期間短縮,生産性の
向上,コスト削減などを図ろうとするものです。企画・設計ではCAD,確認申請もF
D提出があり,図面の電子納品,公共工事での電子入札,材料やサブコンの電子調達な
ど,竣工までの各段階では情報化は進んでいるものの,一貫とした情報の流通には至っ
ていません。そこまでには,CADや文書データの交換規格の標準化が必要になります
し,会社の規模によらず業界全体としてネットワークとコンピュータの使用が前提とな
ります。
コンピュータが計算だけするマシンから,それ以外のさまざまな情報を操作するマシ
ンへと変貌し,ネットワークが張り巡らされて自宅でも常時接続できるようになると,
否が応でもこれらを使い倒す術を身に付けなければ社会では認められなくなります。
さもなければ単に使われるだけになってしまうのです。手元にあるパソコンがゲームや
ネットサーフィンだけではあまりにももったいないのです。何かを習得するには努力が
必要で,面倒くさくて,それはパソコンも同じですが,身に付けたものは,思わぬとこ
ろで役に立ったりもします。
神林長平によれば,「踊っているのでなければ,踊らされている。」のだそうです。
さて,あなたは踊りますか,それとも。
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