橋のセルフメンテナンスふくしまモデルが 国から高く評価される

 この度、土木工学科コンクリート工学研究室が取り組んでいるプロジェクト『みんなで守ろう。「橋のセルフメンテナンスふくしまモデル」の構築と実践』が、第2回インフラメンテナンス大賞国土交通大臣賞を受賞しました。インフラメンテナンス大賞は、国土交通省をはじめとする関係省庁が選定する日本国内の社会資本のメンテナンスに係る優れた取組や技術開発を表彰するものです。橋のセルフメンテナンスは、現在、本研究室に所属する研究員の浅野和香奈さんが、学部・大学院在籍時の研究の一環として、福島県の平田村、郡山市、宮城県黒川高等学校等と連携して進めてきたものです。
 8月9日(木)に国土交通省の庁舎において授賞式が行われ、プロジェクトに関わる各機関の代表者が出席。壇上にて石井啓一国土交通大臣より浅野さんに賞状が手渡されるとともに、一人ひとりにも賞状が贈られました。
 本プロジェクトの詳細について紹介し、関係者の皆さまの喜びの声をお届けします。

チェックシートと橋マップで地域の橋を予防保全する            

 2014年、国土交通省は5年に1回の頻度での近接目視点検に加え、日常的な施設状態の把握を勧める道路橋定期点検要領を発表しました。しかし、道路橋管理者の約7割は各市町村であるため、インフラの維持管理に投資できる予算の確保が課題となります。そこで、コンクリート工学研究室では、橋梁点検の一端を地域住民で担うことができる簡易橋梁点検チェックシートを考案し、2015年に福島県平田村にて試行しました。福島県点検調書をもとに、住民でも点検が可能な項目を選定。表面がチェック項目、裏面が損傷例となっています。点検項目のほか、表現方法やデザインを見直し、試行を重ねた結果、市民でも実務者と大差のない、信頼できる点検結果を得られることが確認できました。2016年には平田村に加え、高校の課題研究教材として宮城県黒川高校でも実施。さらに、郡山市のインハウスエンジニアによる巡 回点検にも活用されました。これらの点検結果をまとめたものをウェブ上で確認できる『橋マップ』も作成。橋面上の土砂の堆積といった汚れの指数を5段階に識別し、橋梁の予防保全優先度を色分けして分かりやすく表示することで、地域の橋の清掃活動等を自発的に行う「セルフメンテナンス」に活用できます。この取り組みは様々な機関から注目され、全国各地に展開されています。
 住民主導型、高校主導型、インハウスエンジニア主導型を軸とするモデルが構築されたことで、全国の地方自治体が自らの地域に合った維持管理方法を検討・選択し、適切な維持管理につながることが期待されます。
 インフラメンテナンス大賞では、地域住民や高校生など誰もが簡易に点検できるチェックシートによって、住民等による点検が定着するとともに、高齢者が外出するきっかけになるなど、地域の活性化に寄与しているほか、福島県内に留まらず、他県にも同様の取り組みが広がるなど、外部効果が出ていることなどが評価されました。

 

関係者の喜びの声

 

日本大学工学部土木工学科コンクリート工学研究室 研究員 浅野 和香奈さん

 インフラメンテナンス大賞国土交通大臣賞をいただき、大変嬉しく光栄に存じます。専門家や技術者によるハード面の取り組みが多い中で、住民や高校生などの非実務者の方々による橋梁点検や橋の清掃活動といったソフト面の取り組みを評価して頂くことができ、大変嬉しく思います。学部1年次の道づくりから始まった平田村との取り組みから7年目を迎えましたが、住民の方や役場の方、ワークショップに参加する子どもたちと関われたことは、私にとって大きな財産です。また、黒川高校では3年生の課題研究を通して、生徒さんが成長していく姿をみることができ、大変やりがいを感じました。受賞者としては5名となっていますが、これまでたくさんの方々にご協力いただいたからできたことであり、取り組みに関わった全ての皆さまに感謝の気持ちを伝えたいです。
 今年度は高校生だけでなく土木工学を専門的に学んでいる大学や高等専門学校の学生さんもチェックシートを使った点検を行っており、通常のものより少し専門的な点検項目を追加して点検を行っているようです。どんな項目を追加して点検しているのか調査し、土木工学を専門的に学ぶ、あるいは学んだ方も十分使用できるチェックシートの作成も模索しています。また、点検結果をもとに汚れの度合いを示した橋マップについては、橋梁数が多い自治体ほど作成に時間がかかっていたのですが、橋梁数に関わらず、スピーディーに作成できる方法をマニュアル化して展開していきたいと考えています。
 「橋の維持管理は技術者が行うもの」という認識を持っている市民は多いと思います。しかし、市民でも橋を長持ちさせることにつながる活動があり、自分たちにもできることがある、ということを知ってもらいたいです。今後、過疎化が進行する地域では廃橋するにあたって住民との認識の違いによって合意形成ができない、という問題も生じてくると予想しています。市民の間で橋などのインフラに対する関心や理解を高め、共有財産として「みんなで守る」という意識が広まってほしいですし、これからも広めていきたいと思います。

 

日本大学工学部土木工学科コンクリート工学研究室 岩城 一郎教授

 大学において一定の学力を身につけるボトムアップ教育は大切ですが、早期からレベルの高い課題に挑戦させることも必要です。それがトップアップ教育につながると考えています。浅野さんは同学科の学生2名とともに、1年次の課外講座で平田村での住民との協働による道づくりに参加しました。その取り組みを発表した『社会人基礎力育成グランプリ2013』(日本経済新聞社主催)では準大賞を受賞しています。その後、平田村と連携した取り組みや卒業研究を進める中で、浅野さんは住民による橋梁点検システムを考案し、実践しながら構築していきました。土木分野においても、これからは女性の感性が必要です。女性が活躍できる研究テーマを与えることで、浅野さんの能力を引き出し、自らの成長につなげることができたのだと考えています。さらに浅野さんには、幅広い地域づくりのファシリテーターの役割を担えるような人材になってほしいと思っています。それが今後の土木にも必要な仕事であり、そうした人材を育てることが我々の使命でもあります。
 土木の仕事も教育の方法も、こうでなければいけないというものはなく、多様性、柔軟性が求められています。今の時代に合った土木や教育のあり方を模索し、具現化した結果がこのような評価につながったと考えています。これからも学生一人ひとりの能力を伸ばす教育に尽力し、少しでも土木の将来に貢献できればと考えています。

 

福島県石川郡平田村役場 地域整備課 課長補佐兼管理係長 阿部 喜彦氏

 7年前に始まった日本大学工学部と平田村との協働による道づくりの時から浅野さんには関わっていただき、ともにこのような賞を受賞できて感慨もひとしおです。これまで行政・住民・学生との協働による様々な貴重な経験をさせていただきました。毎年、浅野さんや学生の皆さんが足を運んでくれるのを住民も楽しみにしています。浅野さんが学部4年次に提案されたチェックシートによる橋梁点検では、高齢者がなかなか馴染めず苦労した面もありましたが、徐々に浸透し成果をあげている地区もあります。また、住民との協働によるインフラメンテナンスという考えを取り入れるきっかけとなり、インフラに対する住民の意識も少しずつ変わってきているように思います。
 当村には管理する橋が約60橋あり、昨年まではピックアップしながら点検を進めていました。今年から年1回全橋梁の点検を行うことを決め、7月に実施。点検できなかった橋については9月に行う予定です。行政で行う橋等の近接目視による5 年に1 回の点検が義務化されましたが、簡易チェックシートによる点検システムのおかげで、残りの4年間は住民の皆さんにお願いできるようになり、大変助かります。これからも、役場の職員に足りない専門的な知識やノウハウ等のアドバイスやお力添えをいただきながら、産学官民が一体となって、さらに事業を発展させていければと思っております。

 

宮城県黒川高等学校 環境技術科長 教諭 加藤 勇氏

 本校の校長が岩城教授の講演を聴いたのがきっかけとなり、4年ほど前から日本大学工学部との連携が始まりました。2年目には、当時、学部4年生だった浅野さんに、橋梁に関する特別授業や課題研究の題材として黒川郡大和町での橋梁・清掃点検を実施していただきました。最初は清掃を嫌がる生徒もいましたが、次第に浅野さんを姉のように慕うとともに、地域の橋をきれいにしたいと自ら積極的に取り組むようになりました。試行版だったチェックシートも、生徒の意見も取り入れていただきながら改良されました。3年目には、本格的に大和町での橋梁点検を実施。点検結果を色分けで見える化した橋マップを作成し、大和町に情報提供することができました。4年目には、地元だけでなく周辺地域でも何か役に立ちたいと思い、富谷市での橋梁点検を実施。大和町と同様に、点検結果から橋マップを作成し、富谷市に情報提供することができました。生徒も実際の数値データを見て橋の状況がわかり、メンテナンスの重要性を理解するなど大変勉強になったようです。今年は大衡村で実施しています。また、橋メンテナンスに加えて、中学校と連携して平田村で実施された『橋の名付け親プロジェクト』も計画している段階です。ゆくゆくは小・中・高の連携を進めていければと考えています。
 橋のメンテナンスを通して高校生が地域貢献していることには意義があり、実際に実働部隊として行った取り組みが、このような形で実を結んで大変良かったと思っています。是非とも、国(国土交通省)から評価されたこの活動を県内外にPRして広めていきたいと考えています。

 

郡山市建設交通部道路建設課課長 今泉 勝生氏

 郡山市では、昨年6月に国土交通省主催で開催した『インフラメンテナンス国民会議自治体支援フォーラム』の必要性を認識した事で、品川市長及び岩城教授から意見をいただき、今後、市の主催事業として、継続開催していくこととなり、今年2月に『第2回インフラメンテナンス郡山フォーラム』を開催したところであります。インフラメンテナンスへの市民参画推進の取り組みとして、全国的にも注目をいただいております。その時の話題提供者として、浅野さんには『橋のセルフメンテナンスふくしまモデルの構築と実践』について講演いただきました。平田村や黒川高校の取り組みのように、郡山市では市民の方々の参加はありませんが、インハウスエンジニア主導型としてプロジェクト発展の一翼を担うことができたと思っています。
 郡山市では市内全域パトロールを週2回行い、道路や橋の点検を実施しています。その際、職員が簡易チェックシートを活用して、807橋あるうちの264橋の点検を行ったところ、技術職員という専門的な視点からも、チェックシートはわかりやすく使いやすいと好評でした。点検データは浅野さんに取りまとめてもらっているところで、いずれ橋マップに反映し橋の保全管理に役立てていく計画です。
 将来的には郡山市でも市民の方がインフラメンテナンスに関わっていただけるよう、フォーラム等を通じて理解を求めていきたいと考えています。この賞が意味するものは、将来への期待です。“ふくしまモデル”として全国に展開できるよう、さらに産学官民の連携を深めてインフラメンテナンスに取り組んでいく所存です。

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