葛尾村発ドローンを活用した産学官の連携による地域づくりを目指して

 日本大学工学部工学研究所、郡山地域テクノポリス推進機構、郡山地域ニューメディア・コミュニティ事業推進協議会が主催する『第18回産・学・官連携フォーラム』が、11月28日(火)に工学部50周年記念館3階大講義室で開催されました。日本大学工学部と葛尾村は、平成27年5月15日に『葛尾村の復興まちづくりに係る包括連携協定』を締結し、以来、緊密な連携のもとロハスの工学を基軸とした復興まちづくりを進めてきました。また、日本大学工学部は、平成29年8月9日にDJI JAPAN㈱、㈱スカイシーカーと、「ドローンを活用した生態系調査、社会インフラや環境の保全と防災、物流などの技術開発と、その社会実装に向けた連携・協力」に関する合意書を締結しました。そこで、日本大学工学部と葛尾村は、ドローンを活用した葛尾村の復興まちづくりに向けた連携を強化するため、平成29年9月26日に「無人航空機「ドローン」を活用した葛尾村の復興まちづくりに関する協定」を締結しました。
 本シンポジウムでは、葛尾村から始まるドローン技術の利活用による復興まちづくり構想について議論するとともに、この地で実証された成果を郡山圏域や、復興途上の他市町村に展開するための方策について議論しました。

 開催に先立ち、主催者を代表し、出村克宣工学部長兼工学研究所長がご挨拶しました。その中で、工学部は“ロハスの工学”をキーワードに、ドローン技術等の工学技術を復興に活かすために、企業や葛尾村と連携協定を結んだと説明し、「研究活動を活発化し、学科を越えて技術力・研究力を推進させ、その成果を社会で役立てることを目指したい」と抱負を述べました。また、共催の(公財)郡山地域テクノポリス推進機構 齋藤隆常務理事は、「ドローンは各方面での活用が期待されている。本日のフォーラムを有意義なものにしてほしい」と切望されました。

 まずは、産・学・官それぞれがドローンに関する4つの話題提供を行いました。

 

「葛尾村のいまをドローンで知る~社会インフラから環境まで~」

日本大学工学部 土木工学科 岩城 一郎教授

 初めに、工学研究所プロジェクトの一つとして立ち上げた『ロハスのドローンプロジェクト』について紹介しました。今後、葛尾村をフィールドにして、企業とも連携しながらドローンを使った研究を進めていくと説明。続いてサブプロジェクト1のメンバーである建築学科浦部智義准教授が『包括連携協定並びにサステナブル地域づくりフォーラムにおける復興拠点づくりの取り組み』、土木工学科中野和典教授が『葛尾村のフィールドを活かしたグリーンインフラの研究』、同学科朝岡良浩准教授が『田んぼダム事業実証実験とドローンの活用』について次々と話題を提供しました。最後に岩城教授が再登壇し、葛尾村で実施したドローンを活用した橋梁点検の実験の状況等について報告しました。

 

「葛尾村における現況とドローンへの期待」

葛尾村復興推進室 室長 松本 忠孝氏

 葛尾村の震災前と震災時の状況について説明するとともに、復興に向けた活動の歩みを紹介しました。自然との共生、絆づくりと笑顔の育成、持続可能な村をテーマにエコ・コンパクトビレッジを目指す『かつらお再生戦略プラン』を策定した葛尾村。『ツールドかつらお』の開催や復興交流館建設等、新たな取り組みも始まっており、その中で、日本大学工学部とどのような連携が行われているかについても説明しました。ドローン活用による新たなアイディアを生みだし、大学にフィードバックしながら、協力して復興につなげていきたいとの考えを示しました。

 

「ドローンを活用した野生鳥獣生息調査について」

㈱スカイシーカー 代表取締役 佐々木 政聡氏

 農林水産省の野生鳥獣調査事業に採択された、ドローン・赤外線サーモカメラ、画像解析を利用した野生鳥獣の生息状況の把握手法について紹介しました。ドローンの自律飛行により、4Kカメラと赤外線カメラで撮影した静止画像を解析することで、これまでの双眼鏡目視方法よりも正確な状況を把握できるシステムを独自に開発。それにより野生鳥獣の捕獲計画を提案することができ、被害低減にもつながることを示しました。佐々木氏は、マニュアルの整備の必要性はあるものの、様々な用途に利用できる技術なので、広く活用してほしいと呼びかけました。

 

「小型UAVに搭載可能なセンサ開発とその応用について」

日本大学工学部 情報工学科 若林裕之教授

 大型UAVによる放射線量のモニタリングや猪苗代湖北部水域の植生観測など、研究室で進めてきたUAVを使用した研究について紹介しました。大型UAVから小型UAVに移行した経緯を説明するとともに、独自に開発した小型UAV搭載可視近赤外カメラについて紹介し、それを活用した様々な分野でのデータ解析例を示しました。応用例の1つであるボリビアの氷河状況の観測は、気候変動による水資源の変化を詳細に観測するもので、朝岡准教授と共同研究で行っているものです。若林教授は、今後も小型UAV搭載用センサの開発を進め、生態系モニタリング等への応用を目指したいと述べました。

葛尾村発ドローン技術をふくしま、全国、そして海外へ・・・パネルディスカッション

 続いて、柿崎隆夫工学研究所次長をコーディネーターに、話題提供者3名と葛尾村復興推進室係長の島宗徳氏をパネリストに迎えて、パネルディスカッションを行いました。

岩城 一郎教授

若林 裕之教授

佐々木 政聡氏

島 宗徳氏

 冒頭、柿崎教授(写真左)は、ドローンに対して大いに期待を寄せている会場の方々のために、有益な情報が得られるパネルディスカッションになるよう進行したいと述べました。そしてまず、独自にセンサを開発している若林教授に、技術を広めていくための事業化構想の有無について質問しました。若林教授は「具体的な事業化の構想はないが、いろいろな分野でこの技術を活用していただきたい」と述べました。さらに人工衛星のリモートセンシングとドローンの良さを組み合わせた運用の可能性について、地上のデータと照合した精度が問われるリモートセンシング技術を高分解能で高精度なUAVのデータを使って高めていくことで、いろいろな分野で適用できるモデルを作成したいとの考えを示しました。
 次に、スカイシーカーの佐々木氏に、話題提供の中で紹介された鳥獣生息マップ、獣道の特定などのデータをどのように活かしていくのか伺いました。佐々木氏は野生鳥獣の調査データをいろいろな方面で活かすためには、野生鳥獣の生態について把握することが必要であり、最終的には誰でも同じレベルで撮影できるようにマニュアルをつくって展開したいとの意向を示しました。また、ハンターの方が野生鳥獣の生息を把握することが最も望ましいという考えから、現在、県の猟友会と連携してドローンパイロットの育成事業を進めていることも紹介しました。そのような中で、大学とどのように連携していくのかについて佐々木氏は、「人的に行う調査とドローンの調査の精度を比較した数値精度を大学に評価していただきたい」と要望されました。
 続いて柿崎教授は、葛尾村の島氏に、エコ・コンパクトビレッジ構想の中でドローンをどのように活かしてほしいか問いかけました。島氏は、『ツールドかつらお』の実施に際し、ドローンを使って走っている選手の臨場感溢れる写真を撮影すれば、広報活動にも利用できると述べました。また、「操縦士の育成の場として提供するので、どんどん活用してほしい」との思いも伝えました。柿崎教授も、葛尾村の復興の後押しになるようなドローンの活用方法を考えてほしいと会場に呼びかけました。

 今回は『葛尾村』を冠にしたフォーラムであり、葛尾村を深く知ることが大事だとする柿崎教授は、『葛尾村のいまをドローンで知る』をテーマに発表した岩城教授に、葛尾村の印象について聞かれました。岩城教授は、現状として、まず人が少ないということを指摘するとともに、「震災以降6年間手つかずの状態の葛尾村において、状況を把握するためには、上空から全体を捉えることが大事だ」という見解を示しました。
 パネリスト全員の意見を聞いたところで、柿崎教授は互いの発表に対して意見や質問がないか尋ねました。佐々木氏は、8月にDJI JAPAN㈱および工学部とドローンに関する連携協定を結んだことに触れ、学部全体として取り組んでいるのは工学部が日本初であり、素晴らしい取り組みだと称賛しました。そして、今後の葛尾村・福島の復興のために大きな意味があることだと強調されました。岩城教授も、ドローンの技術はまだまだ課題があると指摘しながら、工学の様々な分野の研究者が議論することで解決策が見いだせるのではと示唆するとともに、まさに工学部全体として取り組んでいることが工学研究所プロジェクトの特長だと言及しました。柿崎教授はそれに加えて、ロハスのドローンプロジェクトの他に、9つの新たなプロジェクトが10月に工学部で立ち上がったことを紹介し、企業の方々の参画を呼びかけました。若林教授も、「センサでこのようなことを知りたい、センサにこのようなものをつけてほしいという要望があれば教えていただき、可能なものを取り込んでいきたい」という考えを示しました。
 これまでの議論の中で、何か葛尾村で活かせることはあったかどうか、柿崎教授は島氏に投げかけました。有害鳥獣の問題を取りあげた島氏は、葛尾村では人がいない期間に増えた猪が人家にも出没するようになった状況を説明し、被害防除の必要性と点在して居住する老人の見守りシステムの必要性を訴えました。それらを含め、柿崎教授は、葛尾村で様々なプロジェクトが成果をあげて、葛尾村が日本初と言われる何かの先進地域になることが重要であり、そのためには全国に向けての情報発信が大事だと言及。そして、何かユニークなことを行っていく必要があると語り、岩城教授に葛尾村で今後実践したいことについて問われました。岩城教授は、ドローンを使って小さな橋でも早く正確に点検ができる技術を開発したいと述べました。また、研究とは別に、子ども向けのドローン教室を企画したり、操縦士を養成したりするなど、ドローンを起爆剤にして復興に向けて歩んでいることを発信する取り組みも大事だと言及しました。
 次に、ドローンを活用したいと考える企業も多い中で、障害になっていることは何かを考えました。佐々木氏は、パイロットの操縦技術の課題を示し、実践的に学ぶためにはフィールドが必要であり、それは葛尾村だからできることだと強調しました。さらに葛尾村に対し、国の特例措置が適用される特区の申請を促しました。また佐々木氏は、スカイシーカーが物資搬送業務も行っていることにも触れ、ドローンを使って村内全域に広報を届ける、さらに搭載したカメラで現況も確認できれば見守りも可能ではないかと示唆しました。柿崎教授も、「鳥獣害対策だけでなく、ドローンの基本技術はいろいろなものに応用できるので、第二・第三の矢として葛尾村から提案してほしい」と切望しました。また、ドローン以外に大学として葛尾村にどのようにコミットすべきであるのか、岩城教授に意見を求めました。岩城教授は、葛尾村の研究フィールドとしての活用、復興交流館や蔵を利用した子ども向けの教育、村民との交流、さらには水の循環などのロハスの技術を導入していくことで、継続的に支援・提案できればよいのではないかという考えを述べました。
 ここで、柿崎教授が会場からの意見や質問を求めたところ、電気電子工学科の石川博康教授から佐々木氏に、ドローンの安全面に関しての質問が出されました。佐々木氏は安全に飛行できる機能を備える機体の開発はメーカーの責務であるが、法律をきちんと守るパイロットの育成が大事であり、自ら尽力していくことを表明しました。
 最後に、パネリスト一人ひとりに意見を求めました。島氏は、人口が少ない葛尾村だから研究フィールドとして活用できるメリットをあげると同時に、村自体に山積している課題を、ドローンを使って解決できるように提案してほしいと訴えました。佐々木氏は、専門的なパイロットの養成が必要とされている中で、葛尾村出身の野生鳥獣に精通したドローンパイロットの育成を進めてほしいと切望しました。若林教授は、開発したセンサをどのように評価するかが課題であり、葛尾村には必要な時にデータが取れるメリットがあり、それを今後大いに活用することを検討したいと述べました。岩城教授はインフラの観点からドローン技術の向上が課題だと指摘。また、これまでの包括連携協定の実績と浦部准教授の住民の方との下地づくりによって、ドローン連携も実現した経緯を説明しました。さらには、帰宅困難地域のモデルケースになる技術開発を行うことで、郡山の中心部でも使える技術の確立を目指したいと宣言しました。柿崎教授も、葛尾村が大学との共同開発研究に便宜を図ったことに対し、大学としても有難いことだと感謝の意を表しました。そして、葛尾村・大学・企業が一体となって次のステップに羽ばたいていけば、海外にも発信できるエッセンスになると示唆し、ロハスのドローンプロジェクトに対して大きな期待を寄せながら、フォーラムを締めくくりました。有意義な時間を過ごした満足感を表すように、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。
 フォーラムに参加した企業の方から、「とても身になる内容だった。特に安全面の課題についての話が聞けてよかった。産学官が連携していくことで、様々な展開も期待できる」という感想が聞かれました。機械工学科3年の学生たちにもよい刺激になったようで、「目視で見るより高性能な分析ができるドローン技術に興味を持った。今後、ロボットの研究に携わる中で、雨・風に強いドローンの開発も目指したい」と意気込みを語っていました。
 このフォーラムを通して、葛尾村と工学部との連携がますます強固なものになったと感じます。そこに企業も連携し、ドローンという新しい技術を活用していくことで、今後発展的な成果が生まれることが大いに期待できます。葛尾村から世界に発信できるような地域活性化モデルが確立されることを願っています。