建築文化賞から見える工学部の未来

この度、工学部の研究施設「ロハスの家」群が、第30回福島県建築文化賞(復興賞)を受賞しました。この賞には、原発のない復興を目指す福島県において、再生可能エネルギーや資源問題に取り組む日本大学工学部の教育や研究に対する大きな期待が込められているものと考えます。

そこで、「建築文化賞から見える工学部の未来」と題して、工学部長出村克宣教授ならびに「ロハスの家」プロジェクトの関係者が集い、工学部が福島の復興にどのように寄与できるのか、そして今後工学部はどのような未来を築いていくことが可能なのかを語りあう座談会を行いました。ここから、工学部そして「ロハスの工学」のさらなる発展の糸口が見えてきました。

*ロハス (LOHAS, Lifestyles Of Health And Sustainability)

 

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【出席者】(写真前列左から)

橋本純教授(機械工学科)、出村克宣工学部長(建築学科)、加藤康司元教授(機械工学科)

(後列左から)伊藤耕祐准教授(機械工学科)、浦部智義准教授(建築学科)

※以下、敬称略

「ロハスの家」プロジェクトとは…

2008年からスタートした「ロハスの家」プロジェクトは、健康で持続可能なロハスという生活スタイル実現のために、「エネルギー・材料の自立と自然共生」をテーマに研究を進めてきました。20091月にロハスの家1号、20103月にロハスの家2号が完成。東日本大震災後の201111月には、「水の自立」も研究テーマに加えたロハスの家3号が完成。原発事故により再生可能エネルギーへの関心がますます高まる中で、「ロハスの家」は研究者や企業のみならず、県民の方々からも注目されるようになりました。現在は、地中熱センターやロハスの花壇などの実験装置も追加され、さまざまな技術の実用化に向けた研究が行われています。

 

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「ロハスの家」群

 

復興につながる研究と若者育成への期待

福島県建築文化賞image003出村:この度、工学部がコンセプトとする『ロハスの工学』の象徴的研究施設「ロハスの家」群が、福島県建築文化賞を受賞したことは大きな喜びです。プロジェクト関係者の皆さんが日々研究を積み重ねてきた賜物であり、工学部にとっても大変名誉なことだと思っています。

浦部:建築作品賞の多くは設計者を対象に授与されるものが多いのですが、この文化賞は建築主である「日本大学工学部」、設計者であり、この座談会出席者を中心とする「ロハスの家」プロジェクトチーム、そして施工者である「蔭山工務店」の3団体が受賞の対象となっています。特に、その施設を所有する建築主が評価されていることは、工学部にとって大変意味深いものだと思います。また、これこそ産学連携そのものであり、意義深いです。

福島県建築文化賞image004伊藤:我々のプロジェクトは、施主、設計者、施工業者、ユーザが対等であり、みんなが関わり協力しあっているところが特徴とも言えます。この賞は、まさに「ロハスの家」プロジェクトそのものですね。

加藤:国や行政機関から助成金をもらって進めているプロジェクトではなく、工学部が独自に資金を出し研究施設を建てていることは、大切な点だと思います。「ロハスの工学」という他大学にはない核となる教育と研究のテーマがあり、それを1つの形にしたものが「ロハスの家」ですから、工学部の教育と研究の方針が認められたと考えてよいかもしれません。

浦部:確かに、私が関わった木造仮設住宅や、機械工学科の柿崎隆夫先生や伊藤先生などが取り組まれている福島県の復興プロジェクト「地域イノベーション戦略支援事業」等における浅部地中熱の実用化研究など、福島県との様々な協働作業・プロジェクトも含めて復興に貢献する日本大学工学部が注力している「ロハスの家」プロジェクトだから、この賞をいただけたような気がします。

出村:だから作品賞ではなく、文化賞なのだと思います。技術だけでなく、工学部が「ロハスの家」を通して伝えようとしている思想は、新たな文化を築きつつあると捉えられたのかもしれませんね。

伊藤:「ロハスの家」は教育施設としての役割も果たしています。2011年度日本機械学会教育賞に「ロハス工学とロハスの家」が選ばれた際、学生はもとより一般の方々にも教育効果をあげていることも評価されました。今回の復興賞も、将来を担う若者への期待であり、若者を復興の要と位置付けられたとしたら、プロジェクトの主旨とも一致していると思います。

橋本:プロジェクトの学生だけでなく、工学部の多くの学生が復興に携わりたいと考えていますから、福島の復興にも大いに貢献してくれるものと思います。

 

 

新しい文明と文化を生み出す「ロハスの工学」

福島県建築文化賞image005加藤:鉄文明、自動車文明、そしてコンピュータ文明と呼べるようなハードウェアがそれぞれの時代にあり、それから文化というソフトウェアが生まれていく。「ロハス」という新しい文化を築くためには、新しい文明が必要であり、今、我々が作り上げようとしている「ロハスの工学」は「ロハスの文明」と呼ばれるものを産み出すことになると思われます。このたびの建築文化賞はこのような意味を持っていると思います。

浦部:文明ですか…。深いですね。いつも加藤先生のお話を聞くと、情熱のシャワーを浴びている感覚になります()。「ロハスの家」プロジェクトに、本気で取り組まれている先生の情熱に引っ張られて、もちろん出来る範囲ではありますが我々も応えていかなくてはならないという気にさせられました。

加藤:本気というならば、工学部が「ロハスの工学」を考え始めた1999年から今日まで、ぶれることなく本気でこのテーマに取り組んできたわけです。トップがビジョンやプランを打ち出して焚きつけても、いつのまにか煙のように立ち消えてしまうのが世の常。しかし、工学部が今でも変わらず「ロハスの工学」を推進しているのは、2世代にわたる学部長の本気度を示しているのではないでしょうか。施主である工学部の姿勢はとても重要です。他の大学にない「ロハスの工学」という教育研究方針を持っているのは、工学部の大きな強みだと思います。

出村:これからの人類にとって必要なのは、ロハスという持続可能で健康的な生き方。そのために工学ができることは何かと考え、それを支える「ロハスの工学」を目指すという答えを導き出したのです。小野沢元久前学部長が推進し、私もこれを教育・研究テーマに掲げてきました。この十数年の間には、「ロハスの家」の他にも、最新設備を整えた研究施設ができました。2002年に完成した次世代工学技術研究センターでは健康をキーワードにした医療技術、2004年に完成した環境保全・共生共同研究センターでは持続可能をキーワードにした環境や社会基盤の研究。いろいろな研究プロジェクトも立ち上がり、今なお継続的に続けられているものもあります。

 

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福島県建築文化賞image006伊藤:研究者にとって、研究自体が楽しくないと続かないものです。研究者が夢中になれるプロジェクトというのはなかなか無いと思います。

橋本:ロハスの家1号ができた時、加藤先生が「この先も次々進んでいくんだよ」とおっしゃったことを思い出します。その翌年にロハスの家2号、そして2011年にロハスの家3号が完成して、本当にその通りになりました。それぞれ特徴的な研究施設ですが、いろいろな“こだわり”もありましたね。ロハスの家1号は金閣寺をイメージしているのですよね()

加藤:そうなんです。1号のあの壁は金閣寺の金色をイメージしているのですが、金色といっても多様にあり、なかなか思うような色にならず苦労しました()。黒福島県建築文化賞image009もそうでしたね。また、屋根の風車と階段の手すりは、平等院をイメージした朱色。それは学部長の“こだわり”でしたね()

浦部:そういえば3号をつくることになり、最初に学部長からプロジェクト参画の依頼をされた時、「3号は五重の塔も視野に入れて・・・」と言われたのを思い出しました(笑)。

出村:金閣寺があるなら、五重の塔があってもいいかと思いましてね()

福島県建築文化賞image010加藤:実はロハスの家3号をつくるにあたって、いろいろなデザイン案が出されました。五重の塔も冗談ではなく、三重、四重にした形も考えられていたのですよ。

橋本:3号は「水浄化」が研究テーマ。つまり「水の自立」を目指していましたから、当初建物の中はキッチンとバスとトイレだけでしたね()

加藤:建築学科の浦部先生がプロジェクトに加わったことで、「水の自立」だけでなく「パッシブデザイン」という福島県建築文化賞image011コンセプトも付加されました。最終的に五重の塔から、太陽エネルギーを効率よく採集できる屋根を持った平屋建てになったというわけです。

伊藤:1号プラス2号の「エネルギー自立」をコンセプトにした設計に、「水の自立」のコンセプトが加わったのが3号。同時に浅部の地中熱を採集し蓄熱する「地中熱センター」も設置され、今では自然の水浄化機能を活かした「ロハスの花壇」などの新たな実験装置もできて、「ロハスの家」群の研究はどんどん広がっています。福島県建築文化賞image012

橋本:「ロハスの花壇」は土木工学科の中野和典先生が開発したシステムで、NUBIC(日本大学産学官連携知財センター)を通して特許を申請しているところです。もともと水浄化の研究の先駆けは、キャンパス内の心静緑感広場にある雨水浄化の地下貯水槽と70号館教室棟のトイレにおける浄化雨水の利用でしたね。ポーラスコンクリートを用いた学部長の水浄化の研究成果がそれらに導入されていますが、3号にもその成果が活かされています。

出村:一つひとつの技術が進化を重ね、いろいろ応用されていきなが福島県建築文化賞image013ら、社会を支える技術に発展していく。それが工学の優れた点だと思います。科学技術を応用して、ものを生み出す技術を学ぶ学問であり、実社会にアウトプットするところまでが工学の役割です。大学の多くの研究者が論文数で成果を競う中、我々は、例えば雨水をきれいにする池をキャンパスにつくり、その雨水を教室棟のトイレに用いて、良しとするわけです。研究成果を見える形にすることは、学生への教育的な効果もあり、文化を育んでいくことにつながると考えるからです。エンジニアリングから文化が生まれる。「ロハス」は、福島県建築文化賞image014工学部の文化になったと言っても過言ではないでしょう。

加藤:文化をさらに発展させるためには、文明、つまり技術の進化が必要になってきますね。 

 

 


進化する若きロハスエンジニアたち

福島県建築文化賞image015伊藤:こうした工学部の文化を一番敏感に感じとってくれているのは、高校生だと思います。推薦入試で面接した受験生の数名から、実際に工学部に来て、見て、聞いて、感じて、ここに決めたと聞きました。「ロハスの工学」という考え方や方向性に共感してくれているのでしょう。

加藤:工学部に隣接する日本大学東北高校の生徒も、帰り道でロハスの家に興味を示していましたね。どういうコンセプトなのかと熱心に尋ねてきましたよ。

出村:工学とはどのようなものかを実際に見せたのが「ロハスの家」。まさに、工学技術の“見える化”ですね。

伊藤: 1号が完成してから4年半余りで「ロハスの家」の見学者は累計6,000名を超えました。高校生が一番多いのですが、技術者・研究者はもちろん、行政・大使館の方々、政治家、マスコミ、一般の主婦から高齢者まで幅広い方々が見学されています。工学技術だけでなく、異分野の連携だったり教育的な手法だったり、それぞれに感じていただけるものがあるみたいです。

福島県建築文化賞2012.7.12 017浦部:学生の目線から見ても多種多様な学びに触れることができるのも「ロハスの家」の特長だと思います。私の研究室では、建築学科でありながら、機械工学科の研究室に頻繁に通って実験や議論に参加している学生もいます。そうすると、建築分野だけでなく機械工学から見た建築の設備・環境に関わる勉強もできるわけです。「ロハスの家」を通した研究を実践することで、学生自身が物事を俯瞰的に捉え出していることは、凄いなと思います。枠を飛び出すという意味では、「ロハスの家」の研究に携わったことが契機となって、建築学科のサンジェイ・パリーク先生に多大なご協力を得て、特異な温熱環境を持つインドの住宅の現状を調査分析するために留学した院生もいますしね。

福島県建築文化賞image016橋本:私の研究室の学生も、土木工学科の先生にいろいろ聞きにいっていますよ。水処理といえば、土木が専門になりますから。また、土木工学科の先生からこんな機械が作れないだろうかという相談をいただくこともあります。実際に作らせていただいたマイクロライシメーターという装置は、ボリビアでの実験に活用されているそうです。

伊藤:企業の方から、「ロハスの家」のこの部分の研究をしている院生を採用したいという要望もありました。修士で研究したことが、そのまま会社の新技術開発に活かせるからだそうです。今使える技術を教えている大学は数多くあると思いますが、これからの世の中、これからの企業にとってこれが必要なんだという技術を教えているのは、日大工学部ならではの特長と言えるでしょう。

橋本:ですから、就職先も多分野多業種になってきましたね。機械工学科から日本下水道事業団に採用された学生もいるんですよ。機械分野から志望する学生が少ないので、重宝がられているようです。

出村:学科を横断していると、建築で勉強していることが、機械のこんなところで役立つのだとわかります。大学にいるうちに、実社会でどこに使われている技術なのかを知ることは、学生にとっても大きなメリットになるはずです。

伊藤:自分が仕事をしているイメージで、学生は勉強しています。将来こうなりたいから、このレベルまで学びたいんだという高い意識を持った学生もいます。

加藤:なるほど。工学部の学生は、学科や業界の枠を超えて自分自身をクリエイトしながら、新しい時代のエンジニアに進化しようとしているのですね。

 

 

「ロハスの工学」の未来を探る

出村:「ロハスの家」プロジェクトが次に考えている研究テーマは何ですか。

福島県建築文化賞image017伊藤:ずばり「食」です。「ロハスの家」プロジェクトも「ロハスの工学」の研究の一つですら、 「家」にとどまらず、「食」をキーワードにした展開もいろいろ考えられると思います。

出村:そうですね。「食」と言っても、いろいろな交わり方がありますからね。実際に食物を作るための技術もあるだろうし、「食」を支える周辺技術もあるだろうし。今社会にあるものでも、もっともっと良いもの、使える技術を探ることも大切だと思いますよ。

浦部:私が「ロハスの家」の発展形として、現在、幾つかの場所で取り組んでいるテーマは「木」です。東北や日本で見てもそうですが、福島にはこんなに豊富な森林があるのですから、それをどう活かしていくかが、ロハスの工学的にも大事だと思うのです。「ロハスの家3号」も木造ですが、建築の目線でも、私が今取り組んでいる木質パネル工法なども含め、様々な木材を消費する工法とその温熱環境は重要なテーマだと思います。地元・福島でできることは何かを考え、それが復興に結びつけばさらに良いかなと思います。

出村:もともと建物造りは、ローカルマテリアルを用いることから始まっていますからね。

伊藤:こういう議論ができるのが「ロハスの家」プロジェクトの特長ですよね。私は、法律や経済の視点からではなく、まず、人を原点にして考えることが重要だと思います。エンジニアリングを考えた場合も、人にとって原点であるのは家であり、ものづくりの基本と言えるのではないでしょうか。そこに注目して始めたプロジェクトなので、多くの人が「ロハスの工学=ロハスの家」と捉えるのは、ある意味間違っていないと思います。ものづくりには原点があって、材料を考えれば木という方向にいくし、家が集まればコミュニティとなり土木につながるし、食を考えれば農業につながっていく。そして医食同源という言葉があるように、食は医にもつながっていく。「ロハスの工学」を核にあらゆる分野がつながり、さまざまな方向に進化していくと思います。

福島県建築文化賞image018浦部:今回「ロハスの家」群が受賞したのも、完成された作品として評価されたわけではないと思うんです。プロジェクトチームの議論でも、ある程度の完成形は求めつつも、可能性を探れるものであることが重要なテーマだった様に思います。そういう意味では、見学者も含めて研究者や学生でもいじりたくなるというか、改修したくなる要素を見つけることが出来るプリミティブな建物で、さまざまな展開が期待できる教育・研究の器が評価されたのかも知れません。「ロハスの家」は、さまざまな研究テーマの導入口みたいなもので、見方を変えれば、全く違う方向に展開させられる可能性もありますよね。

加藤:今のお話を聞いたら、4号を建てたくなりますね。

橋本:ついに4号ですか!学部長()。アポロは17号まで行きましたからね。

出村:夢に終わりはありませんね()その夢の続きは、学生たちと語り合うことにしましょう。

これからも「ロハスの家」プロジェクトや研究を通して、さまざまな技術や有能なエンジニアを世に送り出し、福島の復興や未来に役立てられるよう、ともに努力していきましょう。

 

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