“被災者のために役に立ちたい”-その思いを形に

 東日本大震災から1ヶ月以上が過ぎようとしていた平成23年4月21日(木)、日本大学工学部キャンパスには、いつもの年と同じように満開の桜が咲き誇っていました。ただ違うのは、震災のために休校となったキャンパスには、学生の姿がほとんどないということでした。でも、この日は学生たちの元気な姿が見られました。郡山市にある「ビッグパレットふくしま」の避難所に簡易間仕切を設置する『東日本大地震 津波 支援プロジェクト』に参加する学生たちが集まってくれたからです。
 避難所の窮屈なスペースの中でプライバシーのない状態が長く続く生活は、精神的な苦痛にもつながります。そこで、建築家坂茂氏(坂茂建築設計代表)を中心とする支援プロジェクトは、家族ごとにプライバシーを確保できるように、各被災地に簡易間仕切を無償で設置する活動を進めています。本学部もこうした活動に賛同し、ポータルサイトを利用して被災者の役に立ちたいという有志の学生を募ったところ、地元福島県出身者を中心に44名の学生が参加してくれることになりました。「何か自分にできることはないだろうかと思っていたら、ボランティア募集の連絡をもらったので、すぐに参加を決めました」「父も開成山でボランティア活動をしていたので、私も誰かの役に立ちたいと思っていました」という学生たち。その思いを形にする機会がやってきたのです。
 しかし、ほとんどの学生が初めてのボランティア。出発前に出村克宣工学部長は「地元の方々のために、皆さん力を合わせて大いに貢献してください」と励ましの言葉を掛けられました。意気揚々とバスに乗り込み避難所へ向かう学生たちも、その時はまだどんな体験が待ち受けているか想像もつかなかったことでしょう。

 避難所である「ビッグパレットふくしま」は、普段はイベント会場として活用されています。多目的展示ホールに設けられた居住スペースには、段ボールが敷きつめられ、布団や日常品などの荷物が置かれていましたが、まだ、生活感は感じられませんでした。今回導入される簡易間仕切システムは、紙でできた軽量の筒を骨組みにし、切った布をカーテンのように取りつける仕組みになっています。簡単に誰でも組み立て・解体ができること、解体後の再利用またリサイクルが可能なこと、安価で十分プライバシーが確保できるうえ、自由に開け閉めができるので開放的にもなるというメリットがあります。「カーテンを開ければ隣りとの行き来も楽なので、圧迫感のある段ボールで仕切るより良いアイデアだと思いました」と話すのは、このフロアの世話役であるボランティアリーダーの松本和也さん。常に避難者の立場になって、いかに心地良く暮らせるかを考えています。
 当日は、坂茂氏と支援プロジェクトのリーダーを務める慶応義塾大学大学院生の原野泰典さんや同大学の学生たちも駆けつけてくれました。本学部建築学科の市岡綾子専任講師と日比野巧助教も活動に参加し、学生たちの作業をサポートしました。作業内容や手順など指導を仰ぎながら、現地のスタッフとともに、さあ作業開始。
 用意された500セットのうち、この日は150セットの設置が目標です。屋外では、運び出した紙管にキリで印を付け、電動ドリルを使ってジョイント用の穴を開ける作業を行いました。担当は主に力自慢の男子学生たち。次々と紙管の柱が出来上がっていきます。

 屋内では、カーテン用の布を指定された長さに切り分ける作業が進められていました。なかなか上手く切れなくて苦戦を強いられていた女子学生たちも、徐々にそのコツを掴み、軽快にハサミを走らせていました。

 同時進行で、紙管の組み立ても開始。軽くて丈夫な紙管による骨組みですが、まるで長屋のような家が形成されていきます。

 いよいよ設置された骨組みに、カーテンが掛けられていきます。青いカーテンはファッションデザイナー三宅一生氏の提供をうけたものです。

 最初は、学生たちの作業を不安そうに見つめていた避難所の方たちも、カーテンが掛けられ始めるとだんだん顔がほころんできました。「学生さんたちがやってくれてるんだね。ありがたいね」と声を掛けてくださる方もいました。何度も何度も同じ作業を繰り返す中、疲れが見え始めた学生たちでしたが、逆に避難所の方たちの笑顔に励まされていたのです。

 みんなの努力により、この日は目標を上回る250セット設置を達成しました。「今後は現地のみなさんで作業の継続をお願いします」とプロジェクトリーダー原野さんから託された工学部の学生たち。

 「避難者の方々から感謝の言葉をいただけてとても嬉しかったです」「私たちが間仕切りを設置したことで、少しでも避難者のお役に立てたなら良かったと思います」「今後もこのような活動があれば、また参加したいです」とこれからも活動を続けていくことを誓っていました。

 この日の活動は、新聞やテレビなどで数多く取り上げられ、全国的な話題になりました。

 

社会に貢献するエンジニアをめざすために

 そして、2回目となる間仕切設置ボランティア活動が4月27日(水)に行われました。「友だちからボランティアに参加した話を聞いて、私もぜひやりたいと思いました」「前回は参加できなかったので、次こそはと思っていました」という学生たちが新たに参加。今回は、カーテンの取り替えと表札の取り付け、そして避難者からの要望で、スペースごとの境をわかりやすくするための腰壁を設置します。これらの作業を工学部生のみで行うのです。

 前回は、要領もわからぬまま現場に入り、指示通りに動くだけで精いっぱいでしたが、今回は、自分たち主導で作業を進めていかなければなりません。「よおーし!頑張るぞ!!」と気合も十分。すると、前回あんなに悪戦苦闘した布切り作業も見事なハサミさばきとチームワークのよさで、あっという間に終了。カーテンの取り替え作業も、前回参加した学生から取り付け方を教わり、2人1組となって一軒一軒訪ねて回ります。

 「失礼します。カーテンの取り替えにお伺いしました」と声を掛ける学生たち。一緒に手伝ってくださる避難者の方もいらっしゃいました。みなさんに好意的に接していただき、学生たちも俄然やる気が湧いてきます。

 一方、腰壁作りチームも着々と作業を進めていました。図面片手に段ボールを断裁。取り外しが簡単にできるように切り込みを入れた継ぎ手をサイドの柱に設置。これによって、境目が明確になります。フロアのリーダー松本さんにも確認していただくと、「OK!」のGOサインが出ました。

 さて、カーテンの取り替え作業も終わると、最後に待っていたのは表札づくり。避難者の方に表札の色とどのような名入れにしたらよいかを確認しながら、心を込めて名前を書いていきました。順調と思われた表札づくりでしたが、急きょお年寄りにも見やすい高さに設置してほしいとの要望があり、予定していた仕様を変更することになりました。すでに名入れが終わっている表札は、書き直さなければなりません。振り出しに戻った表札づくりも、みんなで協力して取り組む学生たち。「学科の垣根を越えて協力し合う機会はなかなかないので、とてもいい経験」と笑顔を見せていました。

 そしてようやく表札の取り付けも完了。ほぼ休みなしで業務を遂行した学生たちの表情は、多少疲れていたものの、やり遂げた達成感が伺えました。

 あまり余裕がなかった前回と比べ、現場にも慣れた学生たちは、避難所の方々とも気軽に話ができるようになりました。「避難所の方は元気がないように見えました。ボランティアの僕たちが元気づけたい」と話していたように、間仕切を設置するだけではなく、会話を交わしたり触れ合ったりしながら、少しでも避難者の心を癒すことがボランティアとしての役目でもあります。それがわかっていた学生たちは、積極的にお年寄りの話し相手になって一緒に笑ったり、作業しながらコミュニケーションを図るなど、心のケアにも努めました。

 誰かのために役に立ちたい―それはエンジニアをめざす人にとって、最も基本となる志でもあります。

 避難所を後にする学生たちに深々と、そして何度も「ありがとうございました」とお辞儀をなさる避難者の方がいらっしゃいました。「こんなに感謝されたことが、今まであったのだろうか―」と誰もが心の中で思ったに違いありません。この経験を通して、学生たちは確実に人間として成長できたと思います。そして、これからエンジニアをめざす学生たちにとって、この経験が大きな財産になることでしょう。
 人に役立つモノづくりを―日本大学工学部は常にその姿勢を忘れず、これからも社会に貢献することを目指していきます。