学生の活躍

コンクリート工学年次大会2019(札幌)において「年次論文奨励賞」を受賞しました

普通コンクリートの静弾性係数推定式のポーラスコンクリートへの適用性の明確化が高く評価される

 7月10日(水)から7月12日(金)に行われた公益社団法人日本コンクリート工学会主催の『コンクリート工学年次大会2019(札幌)』において、建築学専攻博士前期課程1年の武田昌也さん(建築材料学研究室:出村克宣教授、齋藤俊克准教授)が『第41回コンクリート工学講演会年次論文奨励賞』を受賞しました。この賞は、若手(40歳未満)研究者を対象として、論文および講演の内容が優れていると認められた者に与えられる賞です。査読の結果、採択された584件の論文についての講演において、講演内容・手法ともに特に優秀だった56件が受賞。コンクリート工学会は建築・土木・化学分野の会員で構成されており、大学だけでなく、企業や研究機関の研究者も多数発表する中での受賞は、大きな価値があります。また、武田さんが発表した『普通コンクリートの各種静弾性係数推定式のポーラスコンクリートへの適用』は、科学研究費助成事業基盤研究(課題番号:16K06589、研究代表者 齋藤俊克)『性能設計を可能とする複合則を適用したポーラスコンクリートの静弾性係数推定の構築』における研究成果であり、現在、科学研究費助成事業基盤研究(課題番号:19K04694、研究代表者 齋藤俊克)『広範な空隙率を持つ性能設計対応型ポーラスコンクリートの静弾性係数推定法の提案』として研究が継続されています。
武田さんに受賞の喜びとともに、研究について詳しくお話を聞きました。

コンクリートに関わる多くの技術者・研究者に役立つ提案が評価されたと思います

―年次論文奨励賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

ありがとうございます。学部時代の学内発表を含め、論文の発表は今回3回目になりますが、全国大会という大きな舞台での発表は初めての経験でした。右も左もわからず心構えもできていない状態で臨みましたから、まさか賞を取れるとは思ってもみませんでした。帰路に着く新千歳空港で受賞の知らせを聞いた時は大変驚きました。いまだに実感が湧かないくらいです。これも偏にご指導いただいた出村先生と齋藤先生のおかげであり、心より御礼申し上げるとともに、日頃から支えてくれている友人や後輩、家族にも深く感謝しています。

―発表した研究について詳しく説明いただけますか。

普通コンクリートとポーラスコンクリート

静弾性係数算定因子としての単位容積質量および静弾性係数と目標空隙率および圧縮強度の関係


私たち建築材料学研究室では、ポーラスコンクリートの性能評価に関する研究を行っています。連続した空隙を持つポーラスコンクリート(写真右)は、透水・排水舗装、防音・吸音壁、緑化基盤、水質浄化などに利用されていますが、普通コンクリートよりも強度が低いことがデメリットになっています。それでも強度改善が進められ、近年では高強度領域での構造部材としての利用も期待されるようになりました。しかし、壁や柱に用いる際の構造計算の基準を示すためには、ポーラスコンクリートの圧縮性状の詳細な解明が必要です。そこで、普通コンクリートの構造計算に用いられる静弾性係数推定式がポーラスコンクリートにも適用できるかを検討する目的で、実験的研究を行いました。ポーラスコンクリートは、粗骨材(粒径5~20mmの砕石)をセメントモルタルで結合し、粗骨材間に所要の空隙(すき間)ができるように調合して製造されます。そこで、粗骨材として、圧縮強度の大きい硬質砂岩砕石と静弾性係数の大きい石灰岩砕石を使用し、普通ポルトランドセメント、細骨材(川砂)、高性能AE減水剤および上水道水で練り混ぜたセメントモルタルを結合材として、空隙率が10・20・30%のポーラスコンクリートを作製しました。作製したポーラスコンクリートの圧縮強度と静弾性係数を計測して、それらの関係を明らかにすると共に、粗骨材の圧縮強度と静弾性係数、水セメント比や単位容積質量などの調合要因がそれらの性質に及ぼす影響を検討した結果、次のようなことがわかりました。

AIJ-New RC FormulaおよびAIJ-1991 Formulaを用いたポーラスコンクリートの静弾性係数推定値と実測値の関係

(1) 水セメント比の増加に伴う結合材としてのセメントモルタルの圧縮強さの低下の程度に比べて、ポーラスコンクリート圧縮強度の低下の程度は小さい傾向にある。

(2) ポーラスコンクリートの圧縮強度と静弾性係数は、使用する粗骨材の圧縮強度および静弾性係数が大きいものほど大きい傾向にある。

(3) 水セメント比にかかわらず、圧縮強度の増加に伴って、ポーラスコンクリートの静弾性係数は増大し、それらの間には高い相関性が認められる。

(4) 本研究の限りでは、普通コンクリートの静弾性係数推定式としての日本建築学会の「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」に示されているNew RC式および同規準の1991年度版の推定式は、ポーラスコンクリートに対しても適用できるものと推察される。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 ポーラスコンクリートはその用途によって空隙率が異なるため、本研究では幅広い空隙率を持つものを作製して、普通コンクリートの静弾性係数推定式であっても、ポーラスコンクリートにまで拡張して適用できることを明らかにしたことが最も評価されたと思います。これまでにない材料や技術といった新規の提案が多い中で、本研究は既存の推定式の活用範囲を広げたもので、多くの技術者、研究者にすぐに役立つ有用な提案だったのではないでしょうか。発表の際には、ポーラスコンクリートの静弾性係数や強度に及ぼす様々な影響因子を更に詳細に検討してほしいといったアドバイスをいただきました。この研究への関心度と期待度の高さを感じました。

建築材料の性質を明らかにすることが楽しくて夢中になっています

―今後の目標や将来の夢についてお聞かせください。

 建物を設計することに憧れて建築の道に進みましたが、建築材料実験の授業でコンクリートの作り方のわずかな違いによって品質が変わることを知り、「建築材料って面白いな」と思って、この研究室に入りました。大学院に進学したのは、先輩から「院に進むと研究者としてだけでなく人間としても成長できる」と言われたことがきっかけでした。その通り、研究室の取りまとめ役としてリーダーシップや後輩たちへの指導力が身についてきたと思います。研究の面では、学部生の頃より 実験結果の細かい分析ができるようになりました。今回、論文発表できたのも、大学院に進学したからこそ与えられたチャンスであり、大変貴重な経験になりました。研究を通じて、ポーラスコンクリートのような複合材料の性能は、使用材料の性質や調合条件に依存することがわかりました。今後は、ポーラスコンクリートの性能を制御する様々な因子の影響度合いを明確にすることが目標です。今はこの研究が楽しくて、もっと続けていきたいと思っています。将来の夢は研究職に就くこと。受賞を励みに、成果をあげられるよう研究に邁進します。

―後輩たちにメッセージをお願いします。

研究も、日々、地道にコツコツと積み重ねたものが成果につながります。何事も、努力した分だけ得られるものも大きいはず。だから、面倒なことから逃げ出さず、打ち勝ってほしいと思います。勉学に関わらず、いろいろなことに挑戦して、充実した学生生活にしていきましょう!

―ありがとうございます。今後の活躍も期待しています。

 

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