道路橋の耐久性に新たな見解を示す研究成果が高く評価される

 この度、土木工学科コンクリート工学研究室(岩城一郎教授・子田康弘准教授)等が発表した論文『アルカリシリカ反応が道路橋RC床版の耐疲労性に及ぼす影響』が、平成28年度土木学会賞論文賞を受賞しました。公益社団法人土木学会は工学系学会の中で最大規模を誇っており、そのような学会において、最も権威ある論文賞を受賞したことは、大きな価値があります。この論文は、一昨年度に本学で学位を取得し、昨年度まで博士研究員(ポスドク)としてコンクリート工学研究室に在籍していた前島拓さんの博士論文テーマです。前島さんは昨年度、土木学会の新人賞と位置付けられる論文奨励賞を受賞しており、2年続けての受賞は快挙と言えます。
 研究内容について詳しく紹介するとともに、研究に携わった関係者の喜びの声をお届けします。

 

論文賞:『アルカリシリカ反応が道路橋RC床版の耐疲労性に及ぼす影響』

 道路橋鉄筋コンクリート製床版(RC床版)の劣化には、疲労損傷など様々な要因がありますが、特に東北地方をはじめとする積雪寒冷地では、凍結防止剤の大量散布に伴い、塩害やアルカリシリカ反応(ASR)が大きな要因となっています。近年、ASRによる過大な膨張を起因として、コンクリートの著しいひび割れなどに見られる劣化事例が増加し、注目されるようになりました。ASRがRC床版の耐疲労性に及ぼす影響を究明し、これに立脚した構造物の維持管理方法を構築することが急務となっています。しかし、ASRによる構造物の劣化が顕在化するには数年から数10年掛かるため、実構造物に近い状態での再現が難しく、未だ劣化機構の解明には至っておりません。
 そこで本研究では、実物大に近いRC床版を作製し、環境条件の異なるASR促進を実施することで、ASRが道路橋RC床版の耐疲労性にどのように影響を及ぼすのか実験的に検討しました。具体的には、同一材料・配合で作製したRC床版供試体に対し、高温高湿度環境下においてASRによるコンクリートの膨張を早期に促進させる試験と、屋外の暴露環境下で1、2年掛けてゆっくりとASRを促進させる試験を実施し、輪荷重走行試験により耐疲労性を評価しました。コンクリートの劣化状況については、共著者である東北大学の研究者により開発された非破壊試験方法を用いて計測しました。
 その結果、急速にASRを促した床版は、鉄筋がコンクリートの膨張を抑え込むケミカルプレストレスの影響により、健全な床版に比べて耐疲労性がむしろ向上することがわかりました。反対に、緩やかにASRを促した床版では、耐疲労性が大きく低下する結果となりました。これまでの研究では、ASRによる劣化と構造物の性能との関係が明らかにされていませんでしたが、今回の研究成果により、ASRが耐疲労性に著しい影響を及ぼすことが明らかになりました。

地道に積み重ねた研究が大きな成果につながる

前島拓さん(平成28年3月土木工学専攻博士後期課程修了、株式会社NIPPO勤務)

 この研究は予備実験も含め約4年の歳月を掛けて、共同研究者の方々やご指導いただいた岩城先生、子田先生、コンクリート工学研究室の多くの学生の尽力により成果につながったものです。研究に係わった全員で受賞できたものであり、大変嬉しく思っております。特に、研究の要としてご指導いただいた岩城先生、子田先生には深く感謝しております。
 研究漬けの日々で大変なこともありましたが、プロジェクトの主戦として、実験からデータ分析、論文執筆まで経験できたことは、自分を大きく成長させる貴重な財産になりました。また、時間と労力を掛けて地道に積み重ねていくことが、大きな成果につながるものだと実感しました。ただ、受賞はゴールではなく、その先の未来に活かしていくことが大事だというと叱咤激励もいただきました。これを糧にして、さらなる成長につなげていきたいと思っております。
 現在は、床版の上におくアスファルト舗装の仕事に携わっています。これまでと全く違う分野ではありますが、2つの分野に精通したプロを目指して、道路橋の長寿命化に貢献していきたいと考えております。コンクリート工学研究室の多くの卒業生が社会で活躍していることを励みに、私も一流の技術者になれるよう努めてまいります。

 

価値の高い研究成果を生みだす、コンクリート工学研究室のチームワーク力

子田 康弘 准教授

 コンクリート工学研究室には大型環境試験装置と輪荷重走行試験機の2つの装置があり、それが他ではできない精度の高い実験データを導き出せる大きなポイントになっています。さらに、それを生みだしたのは、幾年かにわたり携わった学生たちの卒業研究の成果によるものです。学生という役者は代わっても、手間暇かけてコツコツ根気よく実験と向き合う姿勢は変わらず引き継いでくれました。その間、指導教員として全ての実験を管理し指示を与えるのが私の役割でした。言わば現場監督のようなものです。プロデューサーである岩城教授の指揮のもと、学生たちも含めて結束されたチームワーク力によって、価値の高い研究ができるのだと自負しております。
 今回の研究では、どの段階でASR促進をストップさせるかが大きな鍵を握っていました。2.5トンもある大きな供試体の膨張を制御することは容易ではありません。どういう実験条件で行うかを考え、その条件に合わせて工程表を作成し、供試体の微妙な変化を捉えながら、ASR反応を評価して実験を進めていきました。これまで誰もやったことのない実験なので自信はありませんでしたが、経験則から裏付けされた計測ポイントをもとに、多角的に状況を見て判断しました。それによって、狙った劣化状態を再現することができたのです。
 どのように床版が劣化していくのかが解明されてきたので、これを逆手に捉えるとASRに対しても高耐久なRC床版になると考えています。これからは、コンクリートに関わる様々な現象や原理を解明するといったアカデミックな研究にも力を注ぎたいと思っております。

構造物の長寿命化を目指すコンクリートドクターを養成する

岩城 一郎 教授

 研究に関しては、私はあくまでプロデューサー的立場にたち、監督である子田先生、プレーヤーである学生たちに任せています。そうすることで、学生たちは自ら自覚と責任を持って、研究に真摯に向き合ってくれるものと信じております。社会に役立つ重要な研究に携わることが、彼らのモチベーションとなり、良い成果を生みだすだけでなく、自然に学生自身の成長にもつながっていくのだと思います。土木の現場は一人の力で動かせるものではありません。本研究室では、互いに協力し合うチームワーク力も養っており、ここでしかできない大規模な実験を可能にする力にもなっています。
 今後、人口が減少し、建設投資額も縮小する中で社会インフラをどのように整備するかが大きな課題となってきます。丈夫で長持ちする構造物を後世に残すための研究を進めることが我々の使命です。人間で言えば、老化を予防、改善するアンチエイジングの手法であり、構造物の劣化の原因を究明し、改善する方法が必要なのです。これからも研究を通して、構造物の長寿命化を目指すとともに、社会で活躍できる「コンクリートドクター」の養成に努めてまいります。