論文賞受賞は研究水準の高さが認められた証し
さらに独自の試験法確立と次世代材料開発を目指して

2013%e6%97%a5%e6%9c%ac%e9%87%91%e5%b1%9e%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e8%ab%96%e6%96%87%e8%b3%9e%e5%8f%97%e8%b3%9eimage002 総合教育の藤原雅美教授(写真右)と高木秀有専任講師(同左)等が発表した論文「押込み試験とモデリングによるベキ乗則材料の単軸クリープに関する構成式の予測」が、第61回日本金属学会論文賞を受賞しました。公益社団法人日本金属学会は、国内最大規模の会員数を誇る金属材料をはじめ広く材料工学分野を研究対象とする学術団体です。この論文賞は、毎月発行される学会誌に掲載された年間約250篇(和文・英文)の原著論文の中から、審査員の投票により最も優秀な論文に対して授与されるものです。6つの研究部門から各1篇のみが選出され、今回は力学特性部門で受賞されました。藤原教授等は2006年にも同じ論文賞を受けており、短期間に2回目という快挙を成し遂げました。授賞式は、9月17日(火)、日本金属学会2013年総会(金沢大学)において多数の研究者が集まる中で厳かに行われました。
 藤原教授に喜びの声とともに、受賞した研究について詳しくお話を伺いました。

 

―論文賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

2013%e6%97%a5%e6%9c%ac%e9%87%91%e5%b1%9e%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e8%ab%96%e6%96%87%e8%b3%9e%e5%8f%97%e8%b3%9eimage004 今回の論文の研究によって、マイクロインデンターという測定器械を使えば、米粒ほどの試料でも材料の高温変形挙動を正しく予測できることを証明しました。一般に、試作段階にある材料は少量しか入手できないので、今後の材料開発にきっと役立つものと思います。論文賞をいただけたということは、著者の研究水準が認められたということですから、研究者冥利につきます。また、今後の研究への期待も込められていると受けとめ、後進や大学院生への指導の励みにしていきたいと思います。

 

―受賞された論文の研究内容についてご説明いただけますか。

 硬い円錐形の圧子を一定圧力で試料表面に垂直に押し続けるとき、変形中に試料の性質が変わらないとすると(高温ではこれがほぼ成り立つのですが)、その先端付近の材料の流れ方にある規則性が生じることになります。たとえば、このタイプの圧子が2倍深く押し込まれると、そのまわりの相当歪みや相当歪み速度の等高線分布は2倍大きく広がります。これを変形の自己相似性と言います。このときの変形の代表点を矛盾なく定義できれば、小さな試料を使って押し込む過程で、通常の引張クリープ試験から得られる材料の力学的性質を導き出すことができるはずだと考えました。このアイデアが正しいことを計算機シミュレーションで確かめ、マイクロインデンターという測定器械を使って実証しました。この方法を使えば、米粒くらいの大きさの試料か2013%e6%97%a5%e6%9c%ac%e9%87%91%e5%b1%9e%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e8%ab%96%e6%96%87%e8%b3%9e%e5%8f%97%e8%b3%9eimage006ら得られた結果は、ボールペンくらいの大きさの試料を引っ張って求めた結果とよく一致することが分かりました。これによって、極めて小さな試料さえあれば、高温における材料の力学的性質を正しく予測することが可能になりました。たとえば、高温で引っ張ったとき、何時間後にどれくらいまで伸びるかを高精度で推定することができます。また、タービンを何時間稼働させると、ブレードが内壁に当たって壊れるかを予測することができます。

 

 

―研究成果が得られるまでの道程についてお話いただけますか。

 私は42歳の頃、学会で活躍する人たちの例を見習って、独自の研究手法とそのための試験装置の開発を目指そうと思い立ちました。5年程かかりましたが、1999年特許を取得し、ある教授の紹介があって横浜のベンチャー企業との共同開発まで辿り着きました。これが、2000年NUBICを通して国内TLO技術移転第1号となった計装化押込み試験装置(製品名:マイクロインデンター)です。この試験装置は、真空中で、硬い針状のセンサーを高温の材料表面に一定圧力と一定速さで押し付けたときの押込み深さの時間変化などマイクロオーダーで測定するものです。従来からあったナノインデンターは薄膜の硬さを測定するためのもので、高精度の反面、熱膨張が邪魔して高温にはできないというデメリットがありました。これに対して、マイクロイン2013%e6%97%a5%e6%9c%ac%e9%87%91%e5%b1%9e%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e8%ab%96%e6%96%87%e8%b3%9e%e5%8f%97%e8%b3%9eimage008デンターでは圧子の押し込み速度と圧力が一定に制御でき、1000度近い高温下での実験も可能なため耐熱材料や原子力材料の試験もできます。当時の周辺技術から判断し、高温を得るためにナノではなく敢えてマイクロを選択し、オンリーワンの試験装置と研究手法を身につけることに注力しました。2006年に論文賞を受けた研究内容は、マイクロインデンターを使って従来の方法による研究結果と同様な結果が得られることなどを実証したものでした。今回の受賞論文は、押込みクリープの理論式の導出、計算機シミュレーション、そしてマイクロインデンターによる測定結果を組み合わせて、小さな試験片から大きな材料の高温変形挙動を正確に予測しようとするものです。実は2002年から2003年にかけて、米国マサチューセッツ工科大学で客員研究員として研究生活を送りました。短い間でしたが、とても刺激的で心躍る毎日でした。そのとき出会った若い中国人の研究者から、計算機シミュレーションという研究テクニックを学んだのです。彼は、私と違って稀に見る秀才です。彼と議論しているときは黄金の時間でした。彼ともっと早くに出会っていれば良かったのにとつくづく思いました。これまで彼との共著論文は10篇くらいあります。帰国以来、“実験”を中心に“理論”と“計算機シミュレーション”をミックスし、自分の研究スタイルと研究環境を構築しようと心がけてきました。私の研究室のモットーは、Laboratory for Experimental and 2013%e6%97%a5%e6%9c%ac%e9%87%91%e5%b1%9e%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e8%ab%96%e6%96%87%e8%b3%9e%e5%8f%97%e8%b3%9eimage010Computational studies on Materialsの頭文字をとって“LEXCOM(レックスコム)”です。材料について実験と計算機シミュレーションによる研究をする工房というような意味です。現在、私の研究室には大手自動車メーカーの研究員などがやって来て、マイクロインデンターを使って測定していきます。このように研究環境を整備し、若手研究者、大学院生、学部生を育ててきたことが、今回の受賞につながったと思っています。

 


―今後の目標についてお聞かせください。

 現在、文部科学省の新学術領域研究に採択された「シンクロ型LPSO構造の材料科学」のプロジェクト研究(平成23年~平成27年)に、分担研究者として参加しています。次世代軽量構造材料を開発することを目的に、「観察・計測と計算力学によるLPSO構造の変形ダイナミクスの解明と新強化原理の確立」を目指して、他大学の4名の研究者らとチームを組んで研究を進めています。現在研究中のマグネシウム合金は軽くて電磁波を通さないという特性があるうえ、従来のマグネシウム合金と比べて強く延性もあるので、薄く圧延加工ができるという特長を持っています。この合金が完成すれば、革新的な展開が期待できます。東北新幹線のボディがマグネシウムで作られているというニュースを聞くのも、そう遠い話ではないかも知れません。

 

―最後に学生にメッセージをお願いします。

 30年以上も前の昔話になりますが、当時勤めていた富士重工をやめて日本大学工学部へ移るとき、大学院時代の恩師から次のようなお手紙をいただきました。「・・学生生活に奔走すれば研究が進まず、雑用と研究の振り分けに悩みはあるが、自ら使命感を持して頑張られんことを祈ります。・・」今とは大学を取り巻く環境が大分違うので多少の解釈が必要ですが、この言葉を忘れたことはありません。私の研究は初めから認められた訳ではありませでした。むしろ、この分野では異端な研究テーマと見られていたようです。今回の受賞に際して、学会の期間中、実に多くの先生方から祝福の言葉をかけていただきました。震災以来、久々に元気が戻ってきました。若い人には、高い志を抱き、今という瞬間を大切に生きながら、そこから飛び出す勇気をもつこと、そして自分らしさを確立すること、何ごとに対してもチャレンジ精神をもって臨んでほしいと思います。

 

―ありがとうございました。今後ますますのご活躍を祈念いたします。