新たに実証した分析手法が価値の高い研究成果として評価される

 この度、生命応用化学科糖質生命化学研究室(小林厚志准教授)で最近新たに発見した研究の成果が、有機化学分野の代表的な国際誌である『Tetrahedron Letters』に採択されました。そしてこの研究内容を表すGraphic Abstractが掲載号のCover Pictureとして選ばれました。掲載号には25報の論文があり、その中の代表として表紙に選ばれたことは大変に名誉なことです。

『Tetrahedron Letters』は研究成果の速報誌と位置付けられており、いち早く周知すべき価値のある成果が掲載されています。しかも、その表紙に選ばれたということは、掲載された論文の中で最も高く評価されたものと推察されます。

小林准教授に研究について詳しくお話を伺いました。

 

―研究成果の採択および表紙への採用おめでとうございます。研究について詳しくご説明いただけますか。

 糖質生命化学研究室では、身近な「糖質」を医療や製造業などのあらゆる分野に応用するための研究に取り組んでいます。糖は単純な分子構造をしているのに、その機能は多彩で複雑な現象をつくりだすという特徴を持っています。“細胞の顔”とも言われ、癌の増殖や免疫細胞の活性化などにも影響しているため、糖の化学を認識することがアンチエイジングや再生医療、ガン治療などの鍵になると考えられているのです。しかし、その物性はまだ解明されていないことばかりです。まずは糖質というものが化学的にどういう特徴を持っているかを調べながら、有用な糖質を利用し、安い原料から高付加価値のある工業材料を開発するための研究へと発展させています。その中で、特に糖脂質に注目し、合成したアルキルチオグリコシドについて調べていました。従来、チオグリコシドはUV(紫外線)を吸収しないと考えられていました。そのため、この化合物の分離にUV検出器を使うことはなかったのですが、たまたま機器のメンテナンスのために液体クロマトグラフィーを使って行った試験でチオグリコシドによるUV吸収が見られたのです。初めは「そんなはずはないだろう」と思ったのですが、再度試験してみると、同じ結果が得られました。そこで、チオグリコシドのUV吸収を利用した高性能液体クロマトグラフィーの分離について検証を行ったところ、複数のチオグリコシドの分離検出を容易に行うことができました。この研究成果により、チオグリコシドがUVを吸収することを証明し、これまでの通説を覆すとともに、その特性を活かして化合物の分離に利用できることを示しました。UVによる検出はコストとしても高くなく、特異的な検出ができるので、検出手法として有効的であり、酵素反応の分析にも便利です。これらの新たな発見が価値ある成果として認められ、『Tetrahedron Letters』への採用につながったのだと思われます。

 

 

論文題目

『UV absorption of n-alkyl 1-thio-β-D-glucopyranosides and its utilization in chromatographic separation』

著者

Hiroshi Itoh, Fabio Pichierri, and Atsushi Kobayashi

掲載雑誌書誌情報

Tetrahedron Letters ,58, 368-3780 (2017)

 

―小林先生にとって、化学の魅力とは何ですか。

 もともと、子どもの頃から生物に興味を持っていたので、大学も応用生物科学科に進学しました。正直、化学をやりたいと思っていたわけではありません。講義を受けているうちに、生物を知る手段としての化学の重要性を知り興味を持つようになったのです。卒業研究はバイオテクノロジー分野の研究室に配属となり、なぜかそこで糖の有機化学合成の研究に携わることになりました。でも、研究を進めていくうちに化学の面白さに引き込まれていき、化学をベースに生物にアプローチすればいいのではと考え始めたのです。まさに、現在の生命応用化学につながるものでした。生命現象は分子と分子の出会いから生まれるものであり、DNAの振る舞いも化学で説明することができます。化学を知れば、視野も広がり、いろいろな可能性が見えてくるでしょう。「生命」と「化学」の融合する新しい研究領域は未知の世界ですから、難しい面も多々ありますが、わからないことが徐々に見えてくるプロセスが研究の面白さであり、それが魅力につながっていくのだと思います。“なぜ?”と思ったことに自ら挑戦できるのも、化学ならではの魅力です。失敗もありますが、試行錯誤しながら謎を解き明かしていくプロセスは、研究の醍醐味と言えます。

 

―今後の目標についてお聞かせください。

 澱粉の構造に関しては、ある程度明らかになってきましたが、より詳細な物性や特色を解き明かしたいと考えています。例えば、同じ澱粉の構成成分として、アミロペクチンとアミロースがあります。うるち米はアミロペクチンとアミロースがおよそ8:2なのに対して、もち米は、アミロペクチンのみでアミロースを含んでいません。このアミロペクチンが餅の粘りのもとになっているのです。構成成分の違いによって異なる性質を持つ澱粉。そうした澱粉の局所的な構造を分析し、なぜそういう構造になるのかを探っていく研究です。構造を決定するのは遺伝子情報だけではないと思っています。どうしても、“不思議”なものに手を出したくなるのは、研究者の性分でしょうか(笑)。

 

―化学の道をめざす学生たちにメッセージをお願いします。

身近なものは全て化学で説明できると同時に、当たり前の日常の中にも、“こんなことがあるんだ!”という発見もあります。“なぜこんな構造になっているのか?”、“なぜこの物質は熱に強いのか?”といった疑問を化学で理解することによって、自分で新たな物質を創り出すこともできるようになります。だから、工学を学ぶ者にとって、化学は基本中の基本なのです。また、これまでのノーベル化学賞の受賞者を見ていくと、様々な研究分野から選ばれており、化学の幅広さを理解することができるでしょう。皆さんには新たな化学の道を切り拓き、大きな可能性に挑んでほしいと思います。

 

―ありがとうございました。今後益々ご活躍されますことを祈念いたします。

 

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