医療の発展に貢献する数学の魅力に迫る!!

2012jpsjimage002 総合教育(数学)戸次直明教授と東北大学大学院医工学研究科グループとの共同研究の論文「Bekki-Nozaki Hole in Traveling Excited Waves on Human Cardiac Interventricular Septum」が、日本物理学会が発行する英文誌である「JPSJ」の編集委員会において、“Papers of Editors’ Choice(注目論文賞)”に選ばれ、JPSJのウェブサイトに掲載されました。JPSJは創刊以来、湯川秀樹のノーベル賞受賞論文も含めて、レベルの高い論文を出版していることで知られています。今回発表された論文は、30年前に戸次教授が発見した“Bekki-Nosakiホール解”という世界に誇る数学的厳密解を現代の医学に応用した大変興味深い研究成果です。
 最先端医療と数学的厳密解がどのように結び付いたのか、数学にはどんな魅力があるのか、戸次教授にお話を伺いました。

 

―「JPSJ」注目論文賞受賞おめでとうございます。論文の内容についてお聞かせください。

 今回の論文が注目された最も大きな要因は、心臓という生身のデータと我々が発見した数学的厳密解が見事に一致したことにあります。東北大学大学院医工学研究科金井グループでは、健康的な人間の心臓の心筋運動の状態を知るために、高精度・高分解能の超音波測定技術を開発しました。人間の心臓はコントラクションとリラクゼーション、つまり収縮と膨張を交互に繰り返し2012jpsjimage004ています。超音波装置を使って非侵襲的に、収縮から膨張への変わり目の大動脈弁が閉じた直後に、心臓壁を伝播する波動を計測することに初めて成功したのです。この波は、流体や化学反応系の波動とは異なり、心筋収縮系自体の粘弾性力学的特性が加わった非常にユニークな強い非線形波動でした。福井大学名誉教授の原田義文先生が、これらのデータ解析のための共同研究の相談に来られました。それらの測定データの物理的意味を検証するために本研究グループが注目したのが、Bekki-Nozaki(BN)ホール解だったのです。30年前、私がまだ大学院生のときに発見した1次元CGLEの解析的厳密解で、振幅の凹みを伴う伝播の位相特異点のダイナミックスを記述する解として知られています。本研究グループから頂いた2012jpsjimage0062012jpsjimage007実験データを解析したところ、驚くほどにその厳密解と一致したのです。心室中隔壁の心筋の力学的特性の振る舞いがBekki-Nozaki(BN)ホール解で理論的に説明できることを初めて実証したというわけです。

 

 

―研究成果をどう思われますか。

  “紙”と“鉛筆”を使って真理を探究するのが数学や物理の世界。言わば毒にも薬にもならない研究をしているようなものです。しかし医学に応用できることがわかり、大変よかったと思っています。データを解析している時も、現象と厳密解が一致することで解の凄さを実感しましたし、改めて数学というのはなんてユニバーサルなんだろうと感動しました。

 

―先生が物理学者をめざしたきっかけは何ですか。

 アインシュタインの相対性理論に出会ったのが、そもそものきっかけです。それまで定説とされていたニュートン力学がどうやって破綻したのか興味がありました。自然科学の法則は人類が経験した範囲の条件下でしか、その正当性を主張できなかったわけです。相対性理論は、マイケ2012jpsjimage009ルソンとモーレイが光の速度を高精度に測定したこと、すなわち人間の経験の限界を超えた情報を我々は知ったというところから始まったといえるでしょう。
 私は自然の摂理とは何か、自然の真理とは何かを知りたいと思いました。自然は複雑に見えますが、きっと深いところでは調和があるに違いないと思っています。その美しい法則、宇宙の法則を人間の英知や理性で感じることができるようにしたい。それが、物理学者をめざした理由です。

 

―実際に何か宇宙の法則を解かれたことはありますか。

 実は30年ほど前ですが、アメリカのNASA関係の研究をしていたことがありまして、その時に太陽の内部がどうなっているのか推測する研究を行っていました。太陽フレアと言われる爆発現象は、人工衛星の通信などに甚大な被害を与える磁気嵐を巻き起こします。NASAは、どれくらいの規模でいつ発生するのか知る必要があったのです。つまり宇宙天気予報です。爆発のメカ2012jpsjimage011ニズムを知るためには、太陽の内部がどんな状態になっているのか分析しなければなりませんが、実際に太陽のない部を直接測定することはできません。そこで数学的に理論立てて解析することを試みたのです。太陽の表面は6000℃、内部は1600万℃。まるでポットの湯が沸騰しているときのようにプラズマが撹拌され、太陽の内部から立ち上がってはまた内部へと戻り巡っています。どのような温度差で熱が循環しているのかを解析した論文が「American Institute of Physics」の「Physics of Plasmas(1995,2007)」に掲載されています。
 見ることのできない世界を解き明かすために、数学は大変役立つ学問なのです。

 

―最後に学生たちにメッセージをお願いします。

 “数学=計算”と思っている人は少なくないでしょう。しかし、数学は芸術そのもの。論理的に、人間の創造力の限界に挑戦しているからです。深くて面白くて神秘的です。公式に当てはめるだけではなく、その先にある数学の面白さを是非知ってほしいと思います。また、自然と同じように人間が生きていくうえで、数学以外にも、必ず基準となる法則があるはずです。経済を優先するがために人間が自然を破壊する現状や、原発という問題もある中で、学生諸君にはエンジニアとして、今何をすべきかを考えながら学んでほしいと願っています。

 

―貴重なお話をありがとうございました。今後ますますのご活躍を祈念申し上げます。