日本建築史における設計基準書である『木割書』に
新たな見解を示した論文が学会で高く評価される

2015日本建築学会奨励賞image001 この度、建築学科の山岸吉弘助教が一般社団法人日本建築学会奨励賞を受賞しました。この賞は、近年中に発表された独創性・萌芽性・将来性のある建築に関する優れた論文等の業績に対して贈られるものです。
 山岸助教が発表した論文『木割書に記述される柱−組物−垂木の関連について-木割の方法に関する研究(その1)』は、論点を木割の数値化による柱割と枝割の融和、枝割の絶対視による方法の一元化、柱割や枝割と等価な組物割の創案の3点に整理し、従来の見解とは異なる新たな考え方を論じたものです。木割の方法論的な可能性の前進を期待させる優れた研究であることが高く評価されました。

 山岸助教に受賞の喜びとともに、研究について詳しくお話を伺いました。

―日本建築学会奨励賞受賞おめでとうございます。

 ありがとうございます。この研究は大学の卒業論文を発展させて取り組んできたテーマの一つで、個人的に思い入れがあり、このような賞をいただけて大変嬉しく思っています。

―研究について詳しくお話いただけますか。

 まず木割書(きわりしょ)について説明いたします。木割とは、日本の伝統的な建築生産の中から出現した設計技術や建築概念を表現する一つの体系です。文章や指図などによって記述されるそれら文書を総称して木割書と言います。かつては精緻な図面を描いていなかったということなどか2015日本建築学会奨励賞image002ら、大工が自分の技術を口頭で伝承していました。それが巻物などに文章で書かれるようになり、秘伝書として代々受け継がれていく中で、立体である建築を言葉と数字に置き換える仕組み、いわば設計基準書のようなものが開発されました。それが木割書です。しかし現在の設計図とは違い、建築の部材寸法を実寸法でなく他の部材との比例(割合)関係で示す方法だったことが、木割書の大きな特徴と言えます。最も古いもので、1300年末頃の中世に書き留められた木割が確認されていますが、普及したのは江戸時代になってからでした。
 木割は建築物の核となる柱を基準にした柱割が定石とされていましたが、道具や技術の進化とともに、屋根材である垂木を基準にする枝割という寸法体系も生まれました。その結果、柱割と枝割の双方向から見ていくと寸法体系に矛盾が生じてきたのです。その矛盾に対して大工たちは、“どうしようもない”不可避的な矛盾として捉えていたというのが、従来の見方でした。しかし私は木割書を読み解くうちに、大工たちはその矛盾を解決しょうと試行錯誤していたのではないかと考え2015日本建築学会奨励賞image003ました。なぜなら、矛盾を認識していなければ、そして対処した結果でなければ書けない記述があったからです。それが「組物割」です。大工たちは柱割と枝割が交差するポイントである組物を基準とすることにより、矛盾を止揚できる可能性があると考えたのではないかという見方を提示したのが、論文の骨子です。日本建築学会からは、この新たな基準である「組物割」は設計と生産の交差点に立ち、その矛盾を解決する必要があった大工の見解に可能性を求めた独創的な着眼点だと評価していただきした。これまでの定説に対し、木割の内容は更新されていて然るべきとの考え方も斬新だったことで、奨励賞につながったようです。

―なぜ、この研究に取り組んだのですか。

 大学時代に所属していた建築史研究室で、メンバー全員で文献を読解するというゼミがあり、その時初めて木割書について知りました。そこに書かれてあった神社建築の一つである「王子造り」に興味を持ったことが、この研究を始めるきっかけになりました。

 もっと遡れば、なぜ日本建築史の道を志したかということになりますが、もともと小学生の頃から美術が好きで、特に浮世絵などの日本文化に惹かれていました。高校時代には司馬遼太郎に出会い歴史にも興味が湧き、その結果、美術と歴史の両方を学べるのは日本建築史だと思い、この道に進んだのです。世の中には無数の建築があり、そこには大勢の人が関わっていて、多くの知識が埋め込まれている。その建築の歴史を勉強したいという思いが、木割書の研究に結び付く原点だったかもしれません。

2015日本建築学会奨励賞image004 この研究は、全国各地にある木割書を探すところから始まります。図書館や博物館に収められているもの、また代々大工の家に保管されているものもあり、これまで数百点以上の木割書に出会いました。巻物だったり、冊子だったり、一枚ものだったりと形態もさまざまです。それを見せていただき、写真を撮るなどしてコピーを持ち帰ります。ほとんどの木割書は筆記体のような崩し字で書かれているので、まずは辞典を使って何が書かれているのかを理解していきます。大工の秘伝書ですから、時折その方の生の言葉が書かれていることもあります。時を越えて今に甦った大工の肉声が聞こえてくるような、そんな感覚を味わえることが、この研究の醍醐味だと思います。

2015日本建築学会奨励賞image005 また、歴史を研究していて一番強く感じるのは、“人の営みはリレーである”ということです。先人が培った生きる知恵というバトンを受け取り、そして次世代に渡していく。その脈々と続くリレーに一つの担い手として参加することも、大事な役割だと思うのです。古い建築物が風雪に耐えぬき今に至った時間の経過を実証していく。もちろん、壊れてしまったものや、試行錯誤を繰り返してようやく完成したものもあるでしょう。失敗を忘れず、それを教訓として受け継ぐことも、私たちの重要な使命ではないでしょうか。

―今後の目標をお聞かせください。

 木割の研究については、これまで発表した論文をまとめた著書を昨年出版したことで、一区切りついたと思っています。次は、新しいことにチャレンジしたいと考えています。取り組みたい研究の一つは、「古民家再生」です。古い建築は減る一方ですが、それらを壊さず長く使えるような方法を提案し、建築業界や社会に貢献していきたいと思っています。

―最後に学生たちにメッセージをお願いします。

 大学4年間は自身にとって特別の時間です。建築の勉強に限らず、何がやりたいのか、今何ができるのかを考え、思い切り取り組んでほしいと思います。

―ありがとうございました。今後益々のご活躍を祈念いたします。

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