「5文型」の新たな問題点を考察した
英文法史の学術研究が高く評価される

 この度、総合教育の川嶋正士教授が、著書『「5文型」論考Parallel Grammar Series, PartⅡの検証』(朝日出版社)の優れた業績により、「平成28年度国際文化表現学会賞」を受賞し平成28年度国際文化表現学会賞image001ました。国際文化表現学会は、学際的、国際的な視野から、世界各国の特質とその表現を研究することを目的とし、地球型社会が進行していることを認識するとともに、各国の文化・文学・映像・民族・言語を尊重して研究活動を行い、その成果を広く世界に発展させていくことを目指す日本学術会議協力学術研究団体です。
 去る5月7日、国際文化表現学会第12回全国大会(日本大学法学部)が開催され、総会において表彰式が執り行われ、川嶋教授に賞状が授与されました。
 川嶋教授に喜びの声とともに、研究について詳しくお話を伺いました。

―国際文化表現学会賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 ありがとうございます。まず今回の研究と出版にあたり、学部長指定研究に採択してくださり、研究の助成をしてくださった出村克宣日本大学工学部長をはじめ多くの方々の助力とご支援をいただきました。この場を借りて感謝の意を表したいと思います。多くの学術書が出版される中でこのたびの拙著に関していくつかの学会に評価していただいたことは研究者として栄誉に感じます。今回の受賞に先立ち、日本情報ディレクトリ学会と日本英語教育史学会より書評を書いていただきました。特に、表彰していただいた国際文化表現学会は日本大学を母体として設立された学術研究団体です。本学にゆかりのある学会からこのような素晴らしい賞をいただき、このうえなく光栄に思っております。2013年に同学会で発表する機会をいただいた際に、ご出席の先生方に好評をいただくとともに日本大学名誉教授の石渡利康先生に「成果をまとめて出版するように」との激励の言葉をいただいたことが本書の執筆につながっています。

―受賞された著書について、ご説明いただけますか。

平成28年度国際文化表現学会賞image002 この著書は、19世紀末に生まれた「5文型」の祖型を用いて外国語の並行学習を提唱するParallel Grammar Series,PartⅡ を検証し、「祖型」の誕生以前から消滅以降の知られざる歴史を詳述するとともに、「5文型」の問題点について考察した英文法史の専門的研究書です。ここ数年「5文型」についてさまざまな角度から研究を重ねてきましたが、「5文型」の擁護や推進が目的ではなく、「5文型」の理論的側面と史的側面に科学的な考察を加えることを主眼に置いて論証しました。
 内容は序章を含め6章に分かれています。

【目次】

序 章 Problem Definition:問題の所在

第1章 Gestation-Forms of the Predicateに至る英文法小史

第2章 Birth-An English Grammar

第3章 Growth-Latin, German, French Grammars

第4章 Death-A Greek Grammar

第5章  Residual Problems-Present Perfect, Progressive, and Future

 序章では、学習文法モデルとして適切であるといえないほど編成が入り組み規則性に欠ける「5文型」の問題点と英国におけるForms of the Predicateの歴史が日本で正しく研究されてこなかった事実、そして日本での「5文型」導入と普及の経緯の問題点を挙げています。
 第1章はForms of the Predicateを提唱したParallel Grammar Seriesが誕生するまでの「英文法」と「言語学」、さらには「英語」の歴史を概観しています。
 第2章から第4章まではParallel Grammar SeriesにおけるForms of the Predicateの誕生から消滅まで、シリーズ文法書の該当箇所をすべて紹介し考察しています。副題にあるとおり、これらを比較検証することが本書の主要な目的です。
 第5章はこれまで論じた以外のさまざまな問題を紹介するとともに、現在研究中である主題と今後取り組む予定のものを加え、日本における英学史的問題や理論的な問題も包括する大きな研究課題であることを示しました。

―研究を通して、どのような成果がありましたか。

 「5文型」を文法項目として教科書や学習参考書に掲載して教えているのは日本だけだという事実のほかに、この形式の誕生の歴史にも誤解があったことが判明しました。これまで「5文型」の祖型となるものは、1904年に英国で出版された本が原典とされてきましたが、それを15年遡る1889年に出版された本に「祖型」が見られることがわかったのです。しかも、その著者は英文法の専門家ではなくラテン語の学者でした。この本は英語、ラテン語、ドイツ語、フランス語、ギリシャ語を統一された分類と用語で記述することを目的に編集された文法書シリーズの一環でしたが、最初に提唱されてから6年後の続刊では、すでに「祖型」は姿を消します。さらに1909年以降、「祖型」を記載する文法書は存在しないことも明らかになりました。学会や論文などでこの事実を発表すると、多くの日本の英文法や英語教育の研究者は愕然とします。一方、欧米の研究者にとっては、いまだに日本で「5文型」が教えられていることの方が衝撃でした。
 このように、日本の英語教育において“金科玉条”のように接してきた「5文型」は謎と誤解に満ちたものであり、気づかぬうちに日本では学習英文法のガラパゴス化が進んでいたというわけです。
 また、今まで誰も指摘しなかった「5文型」の編成上の問題点についても論証しました。「5文型」は簡素であることが最大の利点とされてきましたが、実は編成が入り組んで規則性に欠けており、学習文法モデルとして適切とは言い難いものです。なんとかこの問題を解決できないかと「5文型」の代替モデルを考案しました。目的語と補語の要素により交差分類を行った後に述語論理に基づき、項ごとに分類し再編成することで、理解可能な「5文型」モデルを合理的に再構築することができました。この新たなモデルを2013年に初めて日本言語学会で発表しましたが、大きな反響を呼ぶとともに学術的にも高い評価をいただきました。代替モデルを考案するにあたり、従来の「5文型」の習得状況の実情を知るために工学部の学生に対しアンケート調査を行いました。その結果、学習者が法則性を考えずに暗記せざるを得ない現状と、無意識に法則化された自己流の解析へと変更を加えている事実が判明しました。私がかねてから抱いていた仮説を裏打ちする結果が得られたのです。学生たちは再編成した新たなモデルに対して、高い理解度を示しました。定義に基づき理論づけられていることから、理系の学生には受け入れやすかったようです。教育していくうえで、わからないことを無理に覚えさせるのではなく、理解できるように導くことが大事だと思っています。それが学習意欲にもつながることがわかったのも大きな収穫でした。

―受賞に当たりどのような点が評価されたと思われますか。

 文型に関しては、これまで「5文型」でよいのか、「7文型」「8文型」がよいのではという議論がなされたことはありましたが、「5文型」を表す数字の法則に一貫性がないという編成上の問題や、「5文型」の起源について考察した研究者はいませんでした。これまでと違う視点で「5文型」の問題を浮き彫りにしたことや、新たなモデルを考案したことなどが評価されたのだと思います。
 この著書の出版前後をあわせると、この3年間で様々な学会で発表いたしましたが、専門家はもちろんのこと英文法史を専門としない英語教育関係の研究者の方々からも研究に対して高い関心と好意的な評価をいただきました。それらが研究の自信と励みになっていることは間違いありません。

―今後の目標についてお聞かせください。

 次に取り組みたい研究テーマが二つあります。一つは日本に渡ってきた「5文型」がどのような過程を経て定着したのか、それを紐解きたいと考えています。もう一つは「5文型」を扱った名著とされる、細江逸記氏が1917年に書いた『英文法汎論』が、来年出版されてから100年を迎えるということで、それを記念して『英文法汎論』に因んだ研究をしたいと思っています。平成28年度国際文化表現学会賞image003しかしながら、今取り組んでいる研究も資料に当たると次から次へと新たな課題が出てきます。やればやるほど英文法史に深く入り込んでしまっているのが現状です。5月にも「5文型」の主要素である間接目的語と補語の歴史について学会発表を行いました。これらを論文化していくうちにさらに深いテーマが発見される予感がします。学問の追究は、何か一つ謎が解けたら、また新たな謎が生まれるというように、永遠に追いかけっこを繰り返してしているようなものです。願わくは身体が二つあればよいのにと思います。まずは目標を一つひとつクリアしながら、社会に還元できる研究成果につなげていきたいと思っています。

―ありがとうございました。今後益々のご活躍を心より祈念しております。