変形性膝関節症の早期予防を目指した
診断支援システムの開発研究に期待が高まる

 この度、機械工学科の長尾光雄教授が公益社団法人日本設計工学会優秀発表賞を受賞しました。5月26日に表彰式が行われ、長尾教授に賞状と賞牌が授与されました。この賞は、設計工学の分野における学術研究および教育の成果の公開、発表を奨励することを目的として、春季・秋季研究発表講演会において、特に優秀な研究発表により聴衆に感銘を与えた発表に対し贈られるものです。2017年度秋季研究発表講演会では100件以上の発表があり、参加会員の受賞候補者推薦投票による審査が行われ、上位3件が優秀発表賞に選ばれました。そのうち、長尾教授が発表した『膝関節可動域角度計の性能とバイオメカニクス』は2位に評価されました。本研究は、2件の科学研究費助成事業に採択され、進めてきた成果でもあります。
 長尾教授に喜びの声とともに研究について詳しくお話を伺いました。

―優秀発表賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 正直、賞のことはまったく頭になかったので、非常に驚きました。しかし、多くの会員の皆さまに高く評価していただき、大変光栄なことだと思っております。この研究は一人ではできるものではありません。この研究にご協力頂いている多くの関係者、特に被験者様の方々には快く引き受けていただき、そのおかげで研究成果につながったものであると、心から感謝しております。本発表論文は8月に発行される学会誌『設計工学会/研究発表講演会優秀論文特集号』にも掲載されます。大変栄誉あることですし、今後の研究活動への励みにしていきたいと思っております。

―研究について詳しくご説明いただけますか。

 世の中が長寿社会になる一方で、加齢に伴い身体バランス能力が低下し、日常の歩行が困難になる高齢者も少なくありません。歩行機能維持には、下肢の運動機能が深く関わっていますが、膝関節の関節面軟骨がすり減ることで膝関節が変形して発症する変形性膝関節症も例外ではなく、進行性のため完治は難しいとされる疾患です。ならないよう予防することが大事であり、そのためには早期診断・早期発見が重要な鍵を握ってきます。そこで我々の研究室では、変形性膝関節症計測診断支援システムの構築に関わる研究を進めています。今回の研究では、膝関節屈伸のバイオメカニクス解明を目的に、次の2点について報告しました。1つ目は膝関節可動の終始とその角度域計測のための市販角度計の測定精度の検証、2つ目は健常な膝関節、スポーツしている膝関節、および変形性膝関節症の膝関節を計測して、これらを特徴付ける信号の数値化についてです。実際に患者様やスポーツクラブの高齢者様を計測させていただきデータを取りました。座位の姿勢から立つところまでの人の動きから膝関節の角度と膝関節面に働く荷重の有無による信号を計測。荷重に伴う重心の動揺具合も計測しました。人の動きはカメラでも撮影し、測定結果と同期させています。これら全体の計測システムは独自に開発したもので、膝関節内からの信号を読み取るセンサも自作です。強い発信角度、繰り返される発信の有無、そして発信の領域を知ることで、膝関節のバイオメカニクスの解明につながると考えました。結果、膝関節面が健全な状態と不健全な状態では、負荷を与えた場合に信号に差異が生じることがわかるとともに、3形態の発信の特徴付けの方法と効果を示すことができました。これにより、変形性膝関節症の診断方法の確立にもつながることが大いに期待できます。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 審査は口頭発表の優秀性や質疑応答の回答の的確さなど9項目を4段階で評価し平均化した点数の高さで順位が決まります。スライドを見やすく、わかりやすく工夫したり、学術的な難しい内容も平易に説明した点などが良かったのだと思います。長年の積み重ねにより培った間の取り方や時間内でのまとめ方も好印象につながったのかもしれません。質疑応答の場面でも、相手の質問の意図をくみ取って疑問点に対しわかりやすく的確に答えていたことや活発な討論に展開できたところも評価していただいたようです。

―今後の目標についてお聞かせください。

 診断に関わるパラメーターを検討するためには、被験者を増やしながら、膝関節周りの下肢筋骨格系のバイオメカニクスも加えた診断に関わる特徴の解明が必要です。試験装置も改良し、多くの高齢者の計測データに基づく臨床研究によって精度を高めていくことが目標です。医療機器開発企業の関心も高まりつつありますので、是非とも実用化を目指していきたいと考えています。

―最後に学生たちにメッセージをお願いします。

 研究は、誰も踏み込んだことのない世界に自ら飛び込んでいくようなものです。大変なことばかりで、成果が出ない時もあります。それでも、一筋の光や遠くに輝く星を頼りに、誰も辿ったことのない道を模索しながら進んでいく。それが研究の醍醐味であり、面白さです。限界は自分自身が決めるもの。諦めたらそこで終わりです。未知の世界を自分の力で切り開いてほしいと思います。それがいつかきっと、世の中の人の役立つものになるでしょう。

―ありがとうございました。今後益々ご活躍されますことを祈念しております。