独創的な発想と構造体としての完成度の高さが評価されW受賞に輝く

 6月17日(土)に第4回JSCA東北支部構造デザイン交流会2017(主催:一般社団法人日本建築構造技術者協会東北支部)が開催され、建築学専攻博士前期課程2年の漆原秀明さん(写真中央)と同2年の我妻佑磨さん(写真右)、建築学科4年の海老澤奈苗さん(写真左)の作品『多様化する集積梁―敷地の要素から組み立てる―』が、構造デザインコンテスト学生の部の最優秀賞を受賞しました。JSCAは、建物の安全を支える構造設計者を支援する団体です。東北支部ではいろいろな視点から意見を交換し合える場として、2014年から構造デザイン交流会を開催しています。そのプログラムの一つとして、若手実務者と建築を学ぶ学生を対象にアイディアを競う構造デザインコンテストが実施されています。漆原さんと我妻さんは昨年度も挑戦し奨励賞を受賞しましたが、今年は最優秀賞を狙って準備を進めてきました。そして、海老澤さんという強力な戦力を得て、見事最優秀賞の栄冠を手にすることができたのです。また、実務者の部と学生の部の中から会場の投票で選ぶ最多得票賞も受賞しました。企業の実力者を抑えてW受賞を果たした3名の喜びの声とともに、受賞作品について詳しく紹介します。

『多様化する集積梁―敷地の要素から組み立てる―』

 今年のテーマは、『キャンティレバーを用いたスカイウォークの提案』。キャンティレバーとは、部材の片側だけが固定されて、他方が固定されず自由になっている、片持ち式の梁のことを言います。観光スポットとしての展望スペースやブリッジ、街中で目を引く空中回廊やスカイデッキといった、キャンティレバーの要素を含む構造デザインと力学的な工夫などが審査のポイントになります。
 この作品の舞台は福島県飯坂温泉。かつては温泉街として賑わいを見せていましたが、現在では観光客がピーク時の半数に落ち込み、それに伴い旅館群の半数が廃れている状況です。その一方で、川や深緑ある豊かな自然が局所的に見え始め、ヒト又はヒト以外のモノのニーズの変化を感じられます。新たな飯坂温泉の名所として、かつてのように多くのヒトを街に集め、生物・自然環境の居場所となる構造体を構成し、街の再構築に貢献したいと考えました。そこで、本設計の最も重要なテーマを、「敷地には大量の要素があり、細胞のようにそれらが集合し、スカイウォークを構成する」としました。現在のニーズを考慮しながら形態を整え、自然環境・生物・ヒトの距離を意識的・物理的に縮める媒体として、5 種類の片持梁を提案しました。構造部材は細胞のように集積するイメージから、木の板を何層にも重ねた厚型パネルの集合材であるC L T 材を使用。C L T 構法は全国で大規模の片持梁に運用した例はまだないため、本提案では、5 種類の片持梁の一つを「大規模CLT片持梁」と称して設計し、CLT構法及び木質構造の大規模建築物の可能性を拡げることも目標の一つとしました。また、“構造美”ばかりを追求してきたかつての構造デザインの在り方に疑問を呈し、その土地ならではのデザインにしたいと考えました。地域の特性などをいろいろ探る中で、辿り着いたのが格子状のデザインでした。様々な状況に合わせて水平垂直に形を変化できる格子組は、直交方向につなげたパネルを立体的に組み合わせていくことで、様々な応力の対応を可能とし、構造体を強固にできる点もメリットになると考えました。
 メインとなる大規模片持梁は、集合した格子組のCLTパネルにより構造体を支持させる縦方向と梁全体のたわみを抑えるケーブルによる斜張構造とする横方向の構造要素により、25mの木造片持梁を自立させています。

大規模CLT片持梁

 また、根元に掛かる荷重を考慮し、各梁の接合部には崖・既存建物に鉄のアンカー(打込み杭)を挿入することで、倒壊を防いでいます。鉛直荷重、水平荷重、反力などの力の流れを分析し、ち密な計算によって導き出した形状であり、力学的な工夫を施した部分でもあります。
 自然環境と一体化した空間をつくるための様々なアイディアも組み込みました。空を映すスカイプレートには景色を反射するアルミパネルと太陽光を透過するアクリルパネルの床材を併用。スカイウォークの裏側が見えるスロープからは、構造体の美を感じ取れ、裏側に見える鳥の巣やアクリルパネルから注ぐ日差しが訪れる人に自然の温かみを与えます。また、川の底が見える片持梁リバーウォークは、泳ぐ魚などの生態系を間近で見たり、川水に触れることで、水と親しめる場となっています。さらに、廃旅館には自然との距離を縮めるスカイウォークを設置。これまでにない、新たな体験ができる様々な場所をつくりました。


 このように、自然環境や土地のニーズを活かすとともに、構造計算により、今までにないCLT構法の片持梁を構築し、心地よさのある意匠を兼ね備えた構造デザインを提案しました。力学特性とデザイン性のバランスもとれており、完成度も高いことから、最優秀賞に相応しい作品であると評価されました。

プレゼンボード(PDF)

この経験を糧に、今後に活かしていきたい

 

我妻 佑磨さん/建築計画研究室(建築学専攻博士前期課程2年)

 みんなでつくることが、このコンペの目的でした。3人で力を合わせて取り組んだのはもちろんのこと、後輩たちにも模型作りを手伝ってもらい、みんなの力で完成させた作品で受賞したことが一番価値のあることだと思っています。最優秀賞をいただけたのも、みんなのおかげであり、深く感謝しています。今回のコンペにあたっては、審査のポイントはどこか、コンペの要求に応えられているかなど、細かくチェックして臨みました。それにより、コンペの狙い方のトレーニングはできたと思います。しかし、チームで進めていくにはデザインの限界も感じました。これから社会で働く上での課題として、この経験を活かしていきたいと考えています。

 

漆原 秀明さん/鋼構造デザイン研究室(建築学専攻博士前期課程2年) 

 他分野の研究室の仲間と一緒にやれたことは、大きな意義があると思っています。特に4年生にとっては、なかなかできない経験だったと思います。自分自身もこれから就職するにあたり、“構造設計者とは何か”、“構造の立場としての役割とは何か”を再認識することができ、貴重な経験になりました。全ての建物を計算によって建てられることが、構造の魅力であり、凄いところです。先人たちの膨大な知識の積み重ねによって、今の建築物があるのだと思うと深い感動を覚えます。今回のコンペを通して、構造デザインを考えるうえで、構造美だけでなく、周りの取り巻く環境を考えるべきだと思いました。大学院、仕事を通して一生構造について勉強していきたいと思います。

 

海老澤 奈苗さん/鋼構造デザイン研究室(建築学科4年)

 私は今回、プレゼンテーションを担当しました。先輩方の創り上げた提案をどう伝えればよいかを考えるために、パワーポイントの原稿を確認し、内容を理解したうえで、自分なりにまとめてみました。一番大変だったのは、他の人が考えたことを自分の言葉で表現することでした。二人の考えが十分に伝わるように、何度も練習を重ねて本番に臨みました。自分としては、しっかり伝えることができたのではないかと思っています。これからは自分で調べたり考えたりしたことを人に伝える機会が増えてきます。今回の経験を活かして、自分なりの伝え方を見出していきたいと思います。

 

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