島の未来を考えた卒業設計作品が
様々なコンクールで高く評価される

 『JIA東北学生卒業設計コンクール2018』(公益社団法人日本建築家協会東北支部主催)の公開審査会が3月28日(水)にせんだいメディアテークで行われ、建築学科4年の柳沼明日香さん(浦部研究室・日本大学東北高等学校出身)の作品『モヤイの航海―塩からはじまる島の未来―』が、最優秀賞に輝きました。この審査会は、一昨年より東北支部の卒業設計コンクールとして開催されており、今年は応募作品の中から7作品が選ばれ、公開審査会でのプレゼンテーションによって最優秀賞・優秀賞の2作品が選出されました。東北支部の代表として、6月に行われる『JIA全国学生卒業設計コンクール2018』にも出展されることになり、本学部から5年連続全国大会への出展という快挙を成し遂げました。
 また、柳沼さんは3月4日(日)に行われた『せんだいデザインリーグ2018 卒業設計日本一決定戦』でも特別賞を受賞しています。「卒業設計の甲子園」とも呼ばれ、建築を学ぶ学生にとっては憧れの舞台であり、毎年、数多くの学生が挑戦しているコンクールです。今年は応募数332点から投票方式による審査でセミファイナル進出100作品が選出され、さらに投票と審査員のディスカッションにより選出された10組がファイナル(公開審査)でのプレゼンテーションに臨みました。結果、柳沼さんは全体の4位にあたる特別賞に輝きました。
 柳沼さんに2つのコンクールでの受賞の喜びとともに、作品について詳しくお話を聞きました。(写真は柳沼さんとJIA審査委員長の鈴木弘二氏) 

『モヤイの航海―塩からはじまる島の未来―』  

 

―まずは『JIA東北学生卒業設計コンクール』の最優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 ありがとうございます。この作品は、卒業設計で取り組んだ作品で、2月に学外で行われた卒業設計作品展でもJIA福島地域会賞という評価をいただいていました。正直、もうあきられてしまうのではないかとも思っていましたので、最優秀賞に選んでいただき安堵しています。また、全審査員の方から評価いただき、身に余る光栄だと感じています。

 

―作品について詳しく説明いただけますか。

 現在、日本には421島の有人離島がありますが、人口流出が後を絶たず、近い将来、無人化により数多くの人々の故郷や伝統文化が消滅し、広大な海の維持・管理が困難に陥ることが懸念されています。東京都に属する伊豆諸島も例外ではありません。この作品では伊豆諸島をテーマに、この先も島の営みが続いていくための提案を考えました。伊豆諸島は、米の代わりに塩を税として幕府に上納していた歴史を持ちます。そこで本設計では、塩業を介して人々の営みを再構築することで、塩田が織りなす建築の可能性を提案し、島国日本の社会像を模索しました。敷地は伊豆大島と新島の2島。必ず全ての島に停まる諸島の航路を活かし、島の玄関口である港を再編するために、特色の違う3つの港を選定しました。製塩には採鹹(さいかん)と煎熬(せんごう)という2つの工程があり、伊 豆七島それぞれ別の煎熬を使った製塩施設をつくることで島全体の生産の安定化を図るとともに、人と塩との運搬に関わる島同士のネットワークを構築しました。これにより、新たな船のドックとして生まれ変わります。さらに、製塩の伝承のために見習い職員が宿泊するゲストハウスを設けています。それぞれ港の特性から具体的な建築設計を考えました。階段状の広い堤防がある伊豆大島の元町港には、揚浜式塩田のほか、温泉、ゲストハウス、船着き場、マーケット、居酒屋などをプログラムしました。漁港の波浮港では、海水を上から流し蒸発させて塩をつくる流下式塩田という装置を空き家や空き地に挿入し、住居スケールのシェア塩田を提案しました。空き地が増えるとシェア塩田も拡張する仕組みになっています。中央の固定ドックと周りに浮遊する建築の2つに分かれる新島港は、シーズンによって観光客数が変動するため、よりフレキシブルに使える宿場が求められます。そこで一部の立体塩田の枝条架を動かし壁や床に替えることで、夏場は固定建築に商店街のサテライトショップや温泉を、浮遊建築には宿場、カフェなどのプログラムを設け、オフシーズンである冬場は製塩ができる装置建築としました。この建築のファサードは三角のフレームをつくり、そこに三角形の小さなパネルをはめることで、プログラムに適する遮光率に変えられるようになっています。宿場は訪れた人がフレームに新島硝子をはめることで、記憶を積層させる装置として働きます。観光を含めながら塩田を再興していくことで、塩田施設が観光施設そのものになっていくことが期待できます。“モヤイ”とは、現在もこの地域に伝わる助け合いの意味です。モヤイの航海、それは現代の島国日本の進むべき未来であり、立ち返るべき原点だと考えています。

 

―どんなところが評価されたと思われますか。

 島同士のつながりを持たせ、塩田を再興し、それを使って観光につなげるという明確なコンセプトがあったことや、実際の島の状況を調査し、それを具体的な形に表していた点が評価されたと思います。良い評価だけでなく、こうしたらいいのではというアドバイスがいただけたのは大変有難かったです。ブラッシュアップしながら、次の全国大会に向けて最善の努力を尽くしたいと思います。

 

―そして、全国4位となる『せんだいデザインリーグ』特別賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 せんだいデザインリーグは、大学に入った時から興味を持ち、4年生になったら応募しようと思っていました。しかし、卒業間際の時期ですし、完成しているとはいえ実際に出展するには意外と大変な部分も多く断念した先輩も数多くいると聞いていました。それでも応募したのは、頑張って後輩が作ってくれた素晴らしい模型と、この作品をもっと大きな舞台に出したいと思ったからです。また、「一緒に頑張ろう」と言ってくれた仲間の後押しもありました。大掛りな作品でしたから梱包するのも大変で、体調を崩していた仲間にも手伝ってもらいながら、なんとか出品できました。第1次審査の100選の順位が35位という微妙なラインだったので、ファイナル選出の知らせを受けた時は、会場にいて良かったと安堵しました。2年生の頃に観客として見ていた時には、次元の違う世界だと思っていましたので、その舞台に自分が立つことになり、とても不思議な気持ちでした。プレゼンテーションは、学内審査の時より緊張しませんでした。むしろ開き直って臨めたくらいです。完成度の高さを評価いただき特別賞を受賞することができましたが、正直、他の建築に負けず劣らず自分の建築もいいと思っていましたから、審査直後はもっとアピールできたら違う結果になったかもしれないという気持ちもありました。しかし審査は“運”もあるので、ファイナルに選ばれたこと自体、大変有難いことですし、私としては、審査員の評価より、友人や先生など身近な人たちに祝ってもらえたことの方が素直に嬉しかったです。また、家族が審査の様子を動画で見てくれたようで、普段自分が学校でどんなことをしているのか少しでも知ってもらえたことは大きな収穫でした。
 卒業設計を通して、ご指導いただいた浦部先生や協力してくれた研究室の皆さん、一緒に設計した友人たちに深く感謝しています。

 

―どんなところが建築の魅力だと思われますか。

 建築の魅力が何なのか、まだわからないから続けているのかもしれません(笑)。審査会の時もそうですが、建築家の方々によってもいろいろな見方があって、正解はこれだというものがある訳ではありません。だからこそ、突き詰めてみたくなる、知りたくなるのだと思います。私自身、建築に対して強い拘りがなかった分、いろいろなことを吸収できたように思います。浦部先生には、私のやりたいことをやらせていただきつつ、そうするための手順や、可能性を上手く引き出してくださるようなアドバイスをいただきました。研究室の仲間にも恵まれていて、互いにエスキスし合いながら、自分の考えとアドバイスをバランスよく融合させることができました。当然ですが自分一人の力では、ここまでできませんでした。先輩や仲間と切磋琢磨しながら成長できる環境だったから、結果に結びついたのだと思います。

 

―今後の目標や夢についてお聞かせください。

 建築の道に進んだ時からそうでしたが、家族や友人など、自分の好きな人、身近な人にとって楽しい建築、喜んでもらえる建築をつくりたいと思っています。全員に認めてもおうとは考えていませんが、せめて自分の尊敬する方たちに、“良い”と思っていただけるような建築を目指していきます。

 

―ありがとうございました。今後のご活躍を祈念いたします。

 

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