化学の力で環境問題に取り組む研究が高く評価される

 平成29年12月16日(土)に、日本大学工学部で開催された第8回福島地区CEセミナーにおいて、生命応用化学科4年の安達光さんと髙橋拓己さんが、ポスター発表優秀賞を受賞しました。今回、日本大学工学部の他、福島大学、山形大学、東京電機大学、福島工業高等専門学校、小山工業高等専門学校の化学工学に関連した研究を進めている学生による35件(ポスター)の発表があり、そのうち8件が表彰されました。2人が所属する環境化学工学研究室では、地球温暖化対策技術として、二酸化炭素回収・貯留プロセス構築に向けたガス吸収液の開発と評価を行っています。また、さらに、近年注目されているイオン液体など機能性流体の熱力学的特性の解明を目指しています。
 安達さん、髙橋さんの喜びの声とともに、研究について詳しくお話を聞きました。

産総研の研修員として再生可能エネルギーの有効利用に向けた研究に挑む

安達 光さん(生命応用化学科4年・環境化学工学研究室)
発表題目:「脂質修飾ウレアーゼによる尿素合成」

 再生可能エネルギーを有効利用するために、余剰電力を水素に電気分解して、化学エネルギーとして貯蔵・輸送を可能にする水素キャリアという方法があります。近年、水素キャリアの媒体として注目されているのが尿素です。温暖化物質でもあるCOも取り込んで尿素をつくることで、CCU(COを回収して資源とする技術)にもつながるメリットがあり、電力を安定供給するとともに、化成品・肥料に利用するなどの有効利用が期待できます。
 本研究では、尿素を常温・常圧下で合成することを目標に、尿素加水分解酵素であるウレアーゼを脂質修飾することにより疎水分子化して有機溶媒中で構造を安定化させ、触媒反応の評価を行いました。ウレアーゼは、尿素をCOとアンモニアに加水分解する触媒として知られていますが、水がない疎水条件下では逆反応によって尿素をつくることができるのではと考えました。しかし、酵素は疎水条件下(有機溶媒)では、安定的に高次構造を維持できないことが課題で、表面の疎水分子化が必要となります。そこで、ウレアーゼを脂質修飾することで疎水分子化して、有機溶媒中での構造を安定化させることを試みました。初期実験として、ウレアーゼが逆反応による尿素合成を触媒することを確認でき、有機溶媒比率100%では尿素合成を触媒せず、活性が著しく低下したことから、疎水分子化の必要性を示しました(Fig.2)。 今後、有機溶媒中で尿素合成を可能とする脂質修飾触媒の開発を目指していきます。

 この研究は、(国研)産業技術総合研究所(産総研)福島再生可能エネルギー研究所(FREA)水素キャリアチームと進めている共同研究です。現在、技術研修員としてFREAで研究を行っています。今回、発表する機会を与えていただいたので、しっかり役割を果たしたいと思い臨みました。まさか自分が受賞できると思っていませんでしたが、自分の努力次第で結果はついてくることを実感しました。また、研究へのモチベーションにもつながりました。
 FREAでは様々な分析装置を使って学べるだけでなく、研究の幅や考え方を広げることができます。国の研究員の方から直接指導を受け、コミュニケーションを取りながら研究を進めていくという環境の中で、いろいろな刺激を受けています。研究以外の会話もできて、大学の中では味わえない貴重な経験をさせていただいています。社会に出る前に、専門的な研究機関で働けるチャンスを与えてくださった指導教員の児玉大輔先生やFREAの研究員の方々に深く感謝いたします。卒業後は製薬関係の仕事に従事しますが、大学やFREAで学んだことを活かして、社会に貢献していきたいと思います。

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地球温暖化対策につながるイオン液体によるCO2吸収の研究に挑む

髙橋 拓己さん(生命応用化学科4年・環境化学工学研究室)
発表題目:「[N4441][TFSA]の密度・粘度測定」

 地球温暖化による気候変動を防止するために、COをはじめとする温室効果ガスの排出を抑制する必要があります。CO2の分離精製技術の一つとして期待されているのが、イオン液体を吸収液として利用する方法です。イオン液体は、酸性ガスを選択的に吸収する性質があり、既存のガス吸収液の問題を解決できると考えられています。そこで本研究では、アンモニウム系イオン液体の[N4441][TFSA]: Tributylmethylammonium bis(trifluoromethanesulfonyl)amideをアニオン交換法により合成し、ガス吸収液として検討する際に必要な密度・粘度を幅広い温度範囲で測定するとともに、状態式で相関しました。
 イオン液体は「デザイナー流体」とも呼ばれ、イオン液体を構成するカチオンとアニオンの組み合わせを変えることで、機能や物性を自由にデザインすることができます。そこで、中心原子と密度や粘度、CO2溶解度の関係を調べるため、これまで研究対象にしていたホスホニウム系イオン液体から、中心の原子だけを変えたアンモニウム系イオン液体の密度・粘度を測定しました。その結果、ホスホニウム系イオン液体に比べ、密度も粘度もアンモニウム系イオン液体が高い値を示しました。窒素の原子量はリンより軽いので、イオン液体の分子量に差が出ます。小さい分子量を持つイオン液体は体積も小さくなり、分子間の引き合う力が強くなってしまうため、[N4441][TFSA]が高密度・高粘度になったのだと考察しました。今後は、実際にCO2をどれだけ吸収するのか、CO2溶解度についても調べたいと考えています。

 学会でのポスター発表は初めての経験で大変緊張しましたが、説明するだけでなく、専門家の先生や企業の方と議論を交わすことができ、とても楽しかったです。特に、同じような物質を扱っている人には、とても興味を持って聞いていただけました。また、他大学の先生のご指摘やアドバイスは大変参考になり、同年代の学生によるポスター発表も大いに刺激になりました。自分の発表のどこが良かったのか?という評価はどうあれ、今回、ポスター発表優秀賞を受賞できたことは大変嬉しく思います。本研究では、当初想定していたような結果を得られませんでしたが、なぜ、予想に反する結果になったのか?という観点から考察することも必要です。まだ改善すべき点、やならければいけないことがたくさんありますが、私が研究したことをしっかり伝えることができました。
 高校生の頃は、正直、あまり化学が得意ではありませんでしたが、受験に際し勉強を重ねるうちに面白くなったのがきっかけで、化学の道に進みました。どんどん新しい発見があり、目まぐるしく変わっていく化学・化学工学の世界は難解です。しかし、化学・化学工学は全ての分野につながっており、化学・化学工学の力で新しいモノをつくり出すことができます。それが、化学工学の大きな魅力だと思います。今春から、プラントエンジニアリング会社で施工管理の仕事に就くことになっており、環境化学工学研究室で学んだことを発揮し、活躍したいと考えています。最後に、本研究を実施するにあたりご指導いただいた児玉大輔先生はじめ関係各位に深く感謝いたします。

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