RNAアプタマーがタンパク質を認識し結合する仕組みを
コンピュータシミュレーションによって明らかにした研究が
高く評価され最優秀ポスター賞に輝く

2016cbiimage001 CBI学会2016年大会が10月25日から27日に行われ、生命応用化学専攻博士前期課程2年の吉田尚恵さんが、最優秀ポスター賞(Best Poster Award)に輝きました。CBI学会は情報計算化学生物学会の通称で、本会は化学(Chemistry)、生物学(Biology)、情報計算学(Informatics)という3つの学問分野に関わる先端的な研究開発の基盤構築を目指しています。この賞は、すべての一般発表演題(約120件)の中から最も優れた発表を行った1名のみに与えられるものです。大学の研究者だけでなく、企業や研究機関の研究者も多数発表する中での受賞は、大変名誉なことです。
 吉田さんが発表した「Molecular Simulation Analysis of RNA Aptamer to Human Immunoglobulin G」という演題は、RNAアプタマーが標的となるタンパク質を補足する仕組みを、最新のコンピュータシミュレーションによって明らかにしたものです。RNAアプタマーは、抗体に代わる次世代医薬品として期待されている分子です。この研究によって、これまで治療が困難とされていた疾患に対する治療薬の開発に、この研究が活かされようとしています。
 吉田さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

 

―最優秀ポスター賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

2016cbiimage003 ありがとうございます。ポスター賞は、2日目が終わる頃に大会スタッフの方が私のポスターにリボンをつけに来られ、受賞したことが分かりました。しかも、学会で発表したすべての発表の中で一番良かったと評価していただいたので、喜びもひとしおでした。多くの方が注目する研究を行っているという自信にもなりました。ご指導いただいた山岸賢司先生には深く感謝しております。

 

―研究について詳しく説明いただけますか。

complex

RNA aptamer/protein complex

 私が所属するバイオインフォマティクス研究室では、最新のコンピュータシミュレーションを用いて、タンパク質や核酸などの生体分子を介した生命現象のメカニズムを、原子・分子のレベルで明らかにすることを目指しています。新型インフルエンザや骨粗鬆症など、現代社会で問題となっている様々な病気に有効な治療薬の設計開発に応用することが目的です。
 私は現在、この研究室でRNAやDNAなどの核酸分子に対する分子シミュレーション解析を進めています。RNAは一般的に、DNA上の遺伝情報の配列のコピーや、タンパク質合成の鋳型として働く生体分子として知られています。しかしRNAは遺伝情報のコピーとしての役割だけでなく、「柔軟な立体構造を形成する」という重要な特性を有しています。この特性を利用して創製されたRNA分子が「RNAアプタマー」です。RNAアプタマーの特徴は、抗体医薬と同様に、標的タンパク質の表面構造を広く認識することで標的タンパク質と高い特異性と親和性を有して結合する点が挙げられます。さらに、低分子医薬と同様に、化学合成が容易であることも特徴です。このように、RNAアプタマーは、抗体医薬と低分子医薬の利点を合わせ持つことから、これらに代わる次世代医薬品として期待されています。
 しかし、RNAアプタマーを開発するためには、RNAの配列を決定し、様々な化学修飾を導入することが必要です。これまでは研究者の経験や勘を頼りに開発が進められてきましたが、なかなか成果を得ることができません。なぜなら、実際には、考えられるすべての修飾を導入したRNAアプタマーをそれぞれ合成し、その結合活性を測らなければならないため、新しいアプタマー医薬を開発するためには膨大なコストがかかっていたのです。このプロセスを効率的に行うため、コンピュータシミュレーションにより設計することが求められています。
2016cbiimage007 そこで私はこの問題を解決するため、まず分子シミュレーション解析によって、RNAアプタマーがどのようにタンパク質を認識し、結合するかを明らかにすることが必要だと考えました。研究室に設置されているクラスタコンピュータを使って、数ヶ月単位でのシミュレーションを行いました。シミュレーション解析では、様々な分子のデータが膨大に算出されますが、どのデータがRNAアプタマーのタンパク質への結合性を支配しているのかを解析しないといけません。そこが難題でした。そのためには、コンピュータシミュレーションの知識だけでなく、生命化学やRNAに関する専門知識も必要になります。共同研究の先生などとの議論を重ね、RNAアプタマーがどのようにタンパク質を認識し、結合するかを分子レベルで明らかとすることができました。

2016cbiimage0112016cbiimage009

―どのような点が評価されたと思われますか。

 RNAは柔軟な立体構造をとることで、標的タンパク質に対して特異的に結合します。この性質を考慮して、標的となるタンパク質とどのように結合しているのかを分子レベルで明らかとした点が評価されたのだと思います。また、修飾基の異なるRNAアプタマーの動的な構造変化を解析することで、修飾基がRNAアプタマーの構造へ与える影響と実際の標的タンパク質に対する結合活性との関係性について考察できたことも評価された要因だと思います。多くの方が発表を聞きに来られ、様々な分野の研究者と議論ができて大変有意義でした。それだけ注目度の高い研究なのだと実感しました。

 

―今後の目標(夢)についてお聞かせください。

 病気を引き起こす原因となるタンパク質に対してだけ結合するようなRNAアプタマーは、そのタンパク質の働きを妨害することによって、病気を治すことができる薬になると考えられています。私の大きな目標は、このようなRNAアプタマーをコンピュータシミュレーションによって、効率的に設計できるようにすることです。私の研究から、有効な治療薬がなかった病気に対しても治療することのできる医薬品を設計し、患者さんの治癒に貢献したいと思っています。

 

―どんなところが研究の魅力ですか。

 一般的に2016cbiimage014化学というと、白衣を着て、試験管などのガラス器具を用い、実際の薬品を使って「実験する」というイメージを持つと思います。しかし私は、そのような実際の物は使わず、最新のコンピュータシミュレーションによって体の中で起こっている様々な生命現象の仕組みを解き明かそうとしています。コンピュータの中では、実際の実験では解析することが難しい原子や分子の一つ一つの動きを、精密にシミュレートすることができます。複雑な仕組みで動いている生命活動も、分子や原子一つ一つの化学反応によって制御されています。コンピュータを使って解析することは、生命の仕組みを、ひとつひとつ解き明かしていることになります。実験では見えないものを見ることができる、これがコンピュータシミュレーション研究の魅力のひとつといえます。
 2013年のノーベル化学賞は、タンパク質などの生体分子をコンピュータシミュレーションにより解析する手法を確立した研究者が受賞されました。今後、コンピュータシミュレーションは、ますます科学研究において必要不可欠な研究手法になることは間違いありません。このような最新の研究手法を用いて、研究を進めているところも大きな魅力に感じています。
 実は父が薬剤師だったこともあり、小さい頃から創薬に興味を持っていましたが、大学進学を決める時に薬学よりも生命のメカニズムについて知りたいと思い、生命応用化学科に進みました。今、メカニズム解明の研究に携われるだけでなく、コンピュータシミュレーションによって薬をつくる上で基礎を導きだすことができ、ゆくゆくはそれが創薬に繋がっていくというのも魅力に感じるところです。

 

―後輩たちにメッセージをお願いします。

2016cbiimage016 研究はすぐに結果が出るものではありません。毎日一生懸命コツコツと繰り返し行っていくことが大切です。私自身、研究を始めた当初は、今ほど熱心に研究に取り組んではいませんでした。大きな転機は、4年生の10月に経験した学会発表です。学会発表の準備をすることによって、自分の研究内容をしっかりと理解することができ、まだ誰も知らないことに取り組むという研究の楽しさを知りました。また、書籍などで名前を聞いたことがあるような第一線の研究者の先生方に、私の研究内容について興味をもってもらい、学会で直接議論することができたのは、今の私にとって、とても貴重な経験です。研究の楽しさを知るためには、ぜひ大学院に進学してほしいと思います。
 今回、賞をいただいてより一層、頑張れば、努力すれば必ず報われると思うようにもなりました。また、各人が研究した結果が最終的にはつながって、大きな成果へと発展していきます。それぞれが役割を担っていることを認識しながら、真摯に研究と向き合い、日々励んでほしいと思います。

 

―ありがとうございました。今後の活躍も期待しています。

 

ーCBI学会2016年大会ポスター受賞者はこちら