スケールモデルの完成度の高さとエンターテイメント性が評価される

 3⽉29⽇(⽊)、公益社団法⼈⾃動⾞技術会主催による「2018年学⽣安全技術デザインコンペティション⽇本⼤会決勝」が行われ、機械工学科バイオメカニクス研究室(教員アドバイザ:西本哲也教授)が最優秀賞を受賞しました。本大会は、各国政府の道路交通政策担当者・自動車メーカー、大学などが集う自動車の安全技術に関する”ESV国際会議”のプログラムとして、2005年より開催されている学生参加のイベントです。大学生・大学院生のチームが自動車安全を向上させる斬新なアイディアを競います。この日、書面審査を通過した4チームが日本大会決勝に臨みました。バイオメカニクス研究室は「シートベルト着⽤乗員の腰椎・腹部傷害の評価ダミーの開発」を提案。昨年提案した腹部傷害評価ダミーに腰椎⾻折を再現できる腰椎傷害評価ダミーを追加し、腰椎・腹部傷害の評価が可能なダミーを開発しました。各チームから優れたアイディアが提⽰され接戦となる中、本研究室はスケールモデルの完成度の⾼さが評価され、見事最優秀賞に輝きました。
 メンバーの皆さんの喜びの声とともに、発表した内容について詳しくお話を聞きました。

 

シートベルト着⽤乗員の腰椎・腹部傷害の評価ダミーの開発     

 本研究室では、自動車交通事故による人体の傷害を軽減するための研究に取り組んでいます。大学病院との共同による自動車事故の実態調査を行い、傷害と衝突の関係を調べた結果、シートベルト着用乗員に腰椎圧迫骨折と腰椎破裂骨折のパターンが多く見られることがわかりました。現在使われている評価ダミーでは、腰椎部の測定は行われておらず、2つの傷害を評価することができません。神経を圧迫する損傷によって、社会復帰に時間のかかる傷害であることから、未然に防ぐためには損傷メカニズムの解明が必要不可欠です。そこで、次世代の評価ダミーの開発につなげることを目的に、腰椎・腹部傷害の評価ダミーの提案を行いました。
 ダミーの重要な要素として、次の3点が挙げられます。
①生体忠実度:ダミーがヒトの傷害を評価できる ②再現性:ダミーがヒトの傷害を忠実に再現できる ③反復性:繰り返し実施する試験でも壊れない

 生体忠実度を高めるために、腰椎の変形プロセスを測定しました。食用ブタで椎体圧縮実験を行い、変形が開始する値とこれを超えると傷害が発生する値を取得。この値をヒトに換算し、さらに評価ダミーに換算することで、ヒトの傷害を評価できるまで精度を高めました。
 再現性については、材料の選定を重視しました。まず腰椎のCT画像をもとに、CADで部品を設計。椎間板はステンレス板を使用し、ゴムブロックを使った骨の中心部にはフレキシブルアームを通すことで、脊椎の屈曲を再現しました。また、反復性を得るためにも、壊れにくい材料にすることが求められます。そこで、ブタの腰椎と天然ゴム片で圧縮試験を行い、壊れにくいゴム片を採用しました。
 このダミーを使って圧迫骨折と破裂骨折による腰椎傷害を再現できるかを検証しました。圧迫骨折は変形の仕方から、シートベルトに腹部が圧迫され、骨だけが前方に押されることで起こるのではないかと想定し、前方のみに荷重をかける実験を行いました。重り40kgの値が367N、角度57度の時に傷害が発生したことから、367N、角度57度が傷害の発生する「しきい値」と予測できます。破裂骨折は車体の下からの突き上げによって腰椎が潰れることで起こる傷害だと考えられます。実験では下からの負荷を増やしながら、傷害発生の「しきい値」を求めました。
 これらの実験を通して、次のような成果を得ることができました。

  • 腰椎骨折の形態別の評価と空気圧による評価ダミーを開発した
  • ブタ腰椎椎体の変形開始荷重を取得し、断面積比を用いてヒトの傷害発生の「しきい値」に換算した
  • 荷重負荷実験により、圧迫骨折と破裂骨折の2パターンの局所的な傷害を再現できた

 決勝大会では、口頭発表によるプレゼンテーションとスケールモデル・プロトタイプを用いたデモンストレーションでアイディアを競いました。昨年も参加した本研究室は、ブラッシュアップではなく、新しい試みとして、自動車メーカーでも扱っていない腰椎傷害評価ダミーの開発に挑戦。昨年の腹部傷害の評価に加えて、腰椎傷害の評価が可能なダミーを開発しました。そのスケールモデルの完成度の高さが最優秀賞に選ばれた大きな要因です。さらに、審査員の興味をひくために、工夫を凝らしたデモンストレーションでの演出も光りました。それが人体図をプリントしたTシャツです。デモンストレーション時に作業着の下の人体図Tシャツを見せるというパフォーマンスは、国際大会で必要となるエンターテイメント性につながるとして高い評価を受けました。

 最優秀賞に輝いた、機械工学専攻2年の小島巧さん、下田剛さん、黒瀬寿和さん、機械工学専攻1年の大槻脩さん、原田康介さんの喜びの声をお届けします。

小島さん(左):リーダーとしてまとめていく立場でしたが、打ち合わせの機会を多く設けたので、情報を共有しながら同じ目標に向かって協力し合うことができたと思います。審査員の方から商品化を目指してほしいと激励されたのが、とても嬉しかったです。今、業界で何が求められているのかを知ることもできました。後輩たちには、新しいアイディアで世界大会を目指してほしいと思います。

下田さん(右):まさか最優秀賞をいただけるとは思っていなかったので、大変驚きました。モノづくりの大変さや見ている人を引き付けるデモンストレーションの大切さを学びました。モノづくりは一人ではできないことも実感。今後、企業で製品開発に携わる時に活かせる、よい経験ができたと思います。また、研究所の衝突実験の見学も稀有な体験でした。

黒瀬さん:昨年も参加しましたが、当日出場できなかったこともあり、リベンジできてよかったです。大会を通して、自動車事故では社会復帰が難しいケガがあることを伝えられたのもよかったと思います。根気よく実験に取り組む意義を知る貴重な経験になりました。こうした失敗の積み重ねから、新たな商品開発につながるのだと思います

大槻さん(下左):右も左もわからず、先輩におんぶに抱っこでしたが、一つひとつモノを創り上げていく大変さと面白さがわかりました。みんなで力を合わせたから取れた賞だと思います。この経験を来年にも活かしていきたいです。

原田さん(右):「しきい値」を測定する実験では、荷重をかけるためのセッティングが重労働で大変でした。今回は何もわからず、先輩に言われるままに動くしかありませんでしたが、来年は後輩に指導できるようになりたいです。

 バイオメカニクス研究室は、次回書類審査が免除され、来年の決勝大会への出場が決定しています。世界大会の舞台で輝けるよう、更なる飛躍を期待しています。

2018年学生安全技術デザインコンペティション日本大会決勝開催報告はこちら

バイオメカニクス研究室はこちら