審査会で高い評価を受けた建築設計作品が
テクニカル・セミナーの講演作品にも選ばれる

 10月23日(金)に宮城県のせんだいメディアテークにて、「第19回JIA東北建築学生賞(公益社団法人 日本建築家協会東北支部主催)」の公開審査が行われ、建築学科3年の神子小百合さんが奨励賞(みやぎ建設総合センタ―賞)、同4年の大友勝多さんが特別賞を受賞しました。奨励賞の神子さんは、12月5日(土)に行われた「建築学生テクニカル・セミナー」にも参加。作品に対し企業から直接技術提案をいただくという機会を得られました。受賞した神子さんの作品についてご紹介するとともに、当日の様子についても詳しくお伝えいたします。

奨励賞(みやぎ総合建設センター賞) 

作品名:「建築のチカラ―カンショウを手がかりに―」
東北建築学生賞テクニカルセミナー2015image002神子 小百合さん

建築学科3年(ゼミナール:建築計画)

 授業の課題は、建築家の作品や図面・模型、あるいは家具などを収集・展示し、また講演会や集会等を催すことの可能なミュージアムの提案でした。その中で、建築を特殊な芸術ではなく、広く私たちが生活する環境を形づくる基盤と考えたときに、建築家と一般の人たちとの間に生じる乖離を解消し、一般の人たちの建築への理解を促すための方策になることが求められていました。それを踏まえ、私は雑誌のグラビアのように建築のあるきれいなワンシーンをつくるのでなく、人々の居場所となってさまざまなカンショウ体験のできる、建築のある庭のような空間をつくりたいと考えました。選定した敷地は、郡山市公会堂や周辺に図書館などがある郡山屈指の文化ゾーンです。郡山市公会堂は、90年前に建てられた国の登録有形文化財で、時折ライブや講演会が行われてはいるものの、酸化して街から取り残されているように感じられます。そこで、公会堂の使われ方や残し方も大きな課題とし、さまざまな時代の建築が存在する地域に対して、街と建築をつなぐきっかけになるようなデザインと建築プログラムを考えました。
 単体で造形的な建物にするのではなく、人々が自分の庭を歩くような街をつくりたいという思いから、公会堂と街の緩衝材になるようなイメージで、無色透明な5つの箱からなる建築物を公会堂の周りを囲むように配置しました。人々が敷地に入りやすいように広々とした3つの庭を設けたことがポイントです。また、美術館や図書館にある視聴覚的な役割を公会堂に持たせることで、日常的に使われながら街になじんでいき、人々に愛される建物として遺していきたいと考えました。公会堂と街の間には建物がありながらも緩く連続していくように、建物はフルフラットで全て平屋にしています。敷地全体を美術館の回廊とし、さらに敷地内部にも連続させることで、街の回廊となっていきます。それにより、人々が敷地全体を歩き廻り、さまざまなカンショウ体験ができるようにしました。
 それぞれ違った空間体験ができることを目指した5つの箱。それをどのように連続させていけば、建築のボリュームがきれいに交錯するかを何度もスタディしました。このような建築的操作により、建築や街が市民の居場所になることで、人々にとって建築が身近になるものと考えます。3つの異なる時代の建築物が混在する地域において、現代の建築を無理せず設計することで、それぞれの個性を活かした面白い空間になったのでないかと思います。

神子さんの受賞の感想

今回の作品の中で、自分できれいだと考えた配置を同じように評価していただけたことが大変嬉しかったです。しかし、審査員の先生方からいろいろご指摘をいただき、自分がつくりたいと思う建東北建築学生賞テクニカルセミナー2015image003築を設計する技術やデザイン力がまだまだ足りないことを実感しました。それらを今後の糧にして、自己満足にならないように、人とともに何十年も生き続ける建築を設計していきたいと思います。

将来の夢は、大きな建築物をつくること。いろいろな作品を観て、もっともっと勉強していきたいと思います。
『建築のチカラ-カンショウを手がかりに-』作品.pdf 

学内評価(テクニカル・セミナーにて)
東北建築学生賞テクニカルセミナー2015image004 浦部智義准教授(建築学科)

 神子さんが取り組んだ課題は、初めて本格的に施設建築の設計をする3年生前期の課題で、施設の中では比較的自由度の高いミュージアムを設計するというものです。課題の特徴としては、敷地を自分で選定するのですが、神子さんが選んだのは郡山市の公会堂や図書館のある文化度の高い地区で、これまでにも多くの学生が手がけてきた場所です。その敷地で、自分なりに違った解答を見出そうという点に意欲を感じました。
 特に風土性や地域性といったものは感じられませんが、それを十分に補える普遍的な空間力があるように思います。機能面も意識しながら、空間を丁寧に構成していき、「ミュージアム(建築空間)を設計する」という課題に、小細工せずに真摯に取り組んだともいえるのではないでしょうか。また、見方を変えると、時間軸で見た場合に、公会堂や図書館など各々の時代に建てられた建築とともに、この作品も21世紀初期に建てられた建築として存在感を示せる価値のある建築に仕上がっているようにも思えます。

審査会でのJIAの評価(テクニカル・セミナーにて)

東北建築学生賞テクニカルセミナー2015image005 JIA秋田の伊嶋洋文氏(伊嶋洋文地域環境建築設計室)より、神子さんの作品がどのように評価されたのか、次のようにご説明いただきました。(以下、講評)

 この作品を最初に観た時から、清潔感のある作品だと思いました。また、敷地を有効に活用した絶妙なバランスの良さが粋だなと感じました。どこが粋かというと、できるだけ人をエントランスから内側に引きこんでいってから分散させるという機能的な明快さで、そこが評価した点でもあります。反面、歴史のある公会堂と新しい建築ミュージアムとの関係性がもっと深くえぐられていたら良かったと思います。建築的な感覚がとても美しく、創作意欲が素晴らしいですね。地域性や意匠的な評価は高くはないのですが、学生らしくない大胆な禁欲性は評価できます。
 建築はファッションではありませんので、意匠性は第二であり、いかに人にやさしい建築をつくるかが一番大事だと私は思っています。その点、神子さんは魅力ある建物をつくるような建築家になれると思いますので、ぜひ歴史の中に埋もれない建築をつくられることを期待しています。

企業からの技術提案

 神子さんの作品に対して、ヤマキ工業株式会社の松本義弘氏より技術提案をいただきました。貴東北建築学生賞テクニカルセミナー2015image006社は「素材」を生かし「意匠」を極め、建物の外観としてのファサードであるカーテンウォール、外壁を提案する専門メーカーです。松本氏は神子さんの作品の中でも、素晴らしい空間で構成されているエントランスに注目して、型鋼カーテンウォールについてご提案されました。この型鋼カーテンウォールは、大空間を構成することが可能で、外部と内部空間との緩衝エリアや外部風景の鑑賞エリア、外部と交わる干渉エリアとして活用できることが大きな特徴です。ダイナミックなファサードを実現できるフラットフェイスカーテンウォール、オリジナルのデザインが可能な熱押形鋼カーテンウォールなど、これまでの施工事例を紹介しながらご提案いただきました。
 企業が考えるさまざまなカンショウの形によって、実際に建てられた時のイメージが湧いてくる東北建築学生賞テクニカルセミナー2015image007とともに、さらに神子さんの作品に深みが増したように感じられました。こうした提案に対し、神子さんは、「大変勉強になりました。素材や工法など、自分が知らない技術がたくさんあり、それらの知識を学んでいくことで、もっと自由な空間がつくれたり、建築意匠に落とし込めていけるのではないかと思います。ご提案いただきありがとうございました」と感想を述べました。
 今回のテクニカル・セミナーを通して、浦部准教授は、「学生が外部の様々な専門家に評価を受けるということは、とても良い経験になると思います。時に、課題や作品、また学生のプレゼンテーションなどをじっくり見られることで、各々の大学の教育プログラムの特徴が出ているところもあり、教員としても貴重な会でした」と話しています。

 東北建築学生賞特別賞受賞作品についてもご紹介します。

特別賞

作品名:「F-SQUAREの可能性―積極的受動の空間創造―」
東北建築学生賞テクニカルセミナー2015image008大友 勝多さん

建築学科4年(研究室:建築計画)

 今回のコンクールに出させて頂いた作品は、「フクシマを変える建築」という課題に応えるものでした。私は、地元の福島市の駅前の中心市街地にある広場を敷地として、今後の更なる復興に向けて、地域レベルでのコミュニティケアも含め様々な活動を受け止められる施設を計画・設計しました。具体的な操作としては、広場周辺の建築物や街路といった身近な要素を手掛かりにしながらも、空間自体は周辺には少ない内・外部の空間が曖昧で利用の自由度も高い建築を目指しました。

東北建築学生賞テクニカルセミナー2015image009受賞の感想:結果的に、賞を頂けたことは嬉しく思います。一方で、プレゼンテーションでは、自分が大事にした「無理が少ないことの可能性」を、審査員の方々に十分に伝えられなかった部分があったように思います。そのような伝わり方も含めて、最終的な評価につながることを再認識できた良い機会でもありました。
 会場がメディアテークであったこともあり、学内の教室とは違う独特な雰囲気を体験できたことも貴重でした。その中で、他大学の学生の作品やその考え方を、生で見聞きできたことは、学生時代だけでなく社会人になっても役立つ経験が出来たような気がします。今後に活かしていきたいと思います。

 最後になりましたが、ご指導して頂いた先生方や院生の方々に、この場を借りて改めて心から感謝申し上げます。
『F-SQUAREの可能性』作品.pdf