特許につながる固体高分子型燃料電池の研究が高く評価される

 8月30日(水)に公益財団法人相模中央化学研究所が主催する「第12回相模ケイ素・材料フォーラム」が行われ、生命応用化学専攻前期博士課程2年の涌澤尚樹さんが優秀ポスター賞を受賞しました。相模中央化学研究所は日本の化学産業の振興に資する独創的な科学技術の創出を目的とする団体です。本フォーラムは、大学や産業界の研究者や技術者との活発な意見・情報交換などの交流の場として、年1回開催されています。今年度は30件のポスター発表があり、優秀ポスター賞に選ばれたのは8件で、その中でも最優秀賞としての受賞となりました。涌澤さんが発表した『カーボンブラックを添加したコバルトフタロシアニン複合体の焼成および王水処理により得られる非白金触媒の電気化学特性の検討』は、企業と共同で進めている研究成果によるものです。
 涌澤さんの喜びの声とともに、研究について詳しくお話を聞きました。

 

―優秀ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 ありがとうございます。受賞できるとは思っていませんでしたし、表彰式で名前を呼ばれたのも最後だったので、大変驚きました。審査員による投票で一番多くの票を集めたと聞き、高く評価していただいたことを大変光栄に思います。ご指導いただいた根本修克教授や研究に携わった後輩たち、共同研究者の企業の皆さまに深く感謝いたします。

 

―研究内容について詳しく説明いただけますか。

 近年、地球温暖化や化石燃料の枯渇が危惧されている中で、高効率でクリーンなエネルギーを供給できる燃料電池が注目されてきています。電解質の違いにより、様々な種類があり、幅広い用途で利用されている燃料電池の中で、特に固体高分子型燃料電池(PEFC)は、室温で起動するため起動時間が短いことや、電解質が薄膜で小型軽量化が可能であり、電気自動車や携帯機器などへの実用化が期待されています。現在は、正極で行われる酸素還元反応速度をあげるために、エネルギー変換反応効率のよい白金触媒が使用されていますが、白金は高価で埋蔵量が少ないため、PEFCの本格普及の大きな妨げとなっています。そこで、低価格で白金触媒と同等の触媒活性を示す非白金触媒を創製するために、私たちは金属フタロシアニンを用いて研究を進めています。フェノール樹脂のように炭素含有率が多い金属フタロシアニンは、ポリアニリンのように金属を固定できる配位子を持ちます。さらにポリマー化により、ナノレベルで異種金属の配置を制御できる異種金属協同効果を利用できることから、高い酸素還元活性の発現が期待できます。
 これまで行った研究から、コバルトフタロシアニン複合体は炭素含有量を増加させることで、酸素還元活性の向上が期待できるという結果が得られています。本研究では、炭素含有量の向上、表面積の拡大が可能であるカーボンブラックを含有したコバルトフタロシアニン複合体を合成し、焼成により得られた金属担持型炭素触媒の酸素還元活性をリニアスイープボルタンメトリ―測定(LSV測定)により評価しました。また、焼成物の王水処理を行い、金属を除去した炭素触媒について酸素還元活性を評価し、脱金属触媒の可能性についても検討しました。実験は、コバルトフタロシアニン複合体とカーボンブラックの重量比【10:1】、【20:1】、【30:1】の3種類で行いました。その結果、王水処理による触媒活性の向上は見られなかったものの、水素気流中900℃で3時間焼成を行うことで、それぞれ炭素含有量の増加による触媒活性の向上が確認されました。

LSV測定による酸素還元活性の測定

これは、カーボンブラックを含有したことで、金属脱離が少なく、表面積の拡大が見られなかったためだと考えられます。また、重量比【20:1】は、焼成を行うことで高い活性を示したことから、重量比を検討することで、さらに酸素還元活性の向上が期待できるものと推察できます。

 

―どんなところが評価されたと思われますか。

実験により、白金に近い特性を持つ非白金触媒の可能性を示せたことが、最も評価された点だと思います。発表を聞きに来られた方々も、フタロシアニンの特性に高い関心を寄せていました。実用化への期待も大きかったのだと思います。実は、企業と共同で取り組んできた本研究の成果は特許につながるものでしたから、すぐに公で発表することができませんでした。ようやく世に出せて良かったという気持ちとともに、高い評価をいただき優秀ポスター賞も受賞できたので、感慨もひとしおです。

 

―どんなところが研究の魅力ですか。

 この研究は先輩から引き継いだものではなく、自分の力で一から進めてきたものでした。大学院1年次は、これまでと違って自分の研究活動だけでなく、後輩の面倒を見る立場になったこともあり余裕がありませんでしたが、2年次になり多少のゆとりもでき、自分で論文を探しながら非白金触媒に適する構造を考えるようになりました。だから、成果が出た時はとても嬉しかったです。学部4年の時から約3年を経て、自分で論文を考察し、実験方法を組み立て、結果を出せるようになりました。それが研究の魅力でもあります。根本教授からも、自分の考えを持つようにと言われていますが、なぜ失敗したのかを自分で追究できるスキルが身についたと思います。研究を通して成長できることも魅力に感じるところです。

 

―今後の目標をお聞かせください。

 課題である触媒の構造を明確にしたいと考えています。さらに、合成が簡単で、エネルギー変換反応効率のよい非白金触媒の創製を目指して研究を進めてまいります。今後、後輩たちに研究を引き継いでいくことになりますが、さらなる成果を挙げてくれるものと期待しています。失敗もあるけれど、そこでしっかり向き合って考えることが大事です。後輩たちには諦めずに取り組んでほしいと思います。
 大学院修了後は、化学系の会社に就職し、世の中で求められている先駆的な研究に携わりながら、化学の発展に貢献したいと考えています。

 

―ありがとうございました。今後の活躍も期待しています。