分子シミュレーション解析から次世代治療薬の開発につながる
RNAアプタマー分子の開発に成功

6月20日から22日に行われた一般社団法人日本蛋白質科学会年会において、生命応用化学専攻博士後期課程1年の吉田尚恵さんが、2017年度ポスター賞を受賞しました。本会は急速に進展する生物科学・生命科学において、蛋白質構造・機能の研究を進展させるために結成された組織です。2008年東京年会より若手研究者による優れた研究発表に対し、「若手奨励賞」と「ポスター賞」の表彰を行っています。本年度のポスター賞には166名の対象発表の中から、11名が選ばれました。吉田さんが発表した『分子シミュレーションを用いたRNA アプタマーの設計手法の開発 (In silico design of RNA aptamer to human Immunoglobulin G)』 は、平成29年度日本学術振興会特別研究員(DC1)に採用された研究につながる成果です。
 吉田さんに受賞の喜びとともに、研究について詳しくお話を聞きました。

 

―ポスター賞受賞おめでとうございます。昨年度のCBI学会での最優秀発表賞(Best Poster Award)に続いての受賞ですね。感想をお聞かせください。

ありがとうございます。今回発表した日本蛋白質科学会は、全国規模の学会で、その参加人数もとても多いように感じました。そのような中で、ポスター賞を受賞できたことは、大変うれしく思っています。今回の発表は、RNAアプタマー創薬のリーディングカンパニーと他大学の先生方との共同研究プロジェクトにより進められたものです。この受賞は、プロジェクト全体に対する評価であると思っています。改めてそうした研究の場に身を置くことができて光栄に思います。

 

―研究について詳しく説明いただけますか。

 RNAアプタマーは、標的タンパク質の表面構造を広く認識することで標的タンパク質に対して高い特異性と親和性により結合することができる分子です。このような特徴を利用することで、いまだ有効な治療法が確立されておらず、医薬品などの開発が進んでいない治療分野に対して、RNAアプタマーは有効な治療薬となる可能性を持っています。
 しかし、現在の科学技術では、RNAアプタマーの開発には多くの時間とコストが必要です。現状のままでは、RNAアプタマーが、これまでにない機能を持つ分子であっても、採算性の問題から、希少疾病と呼ばれる患者数の少ない難病に対する治療薬の開発は進みません。私は、コンピュータによる分子シミュレーション解析から、RNAアプタマーを効率的に開発できるプロセスを確立することを一つの目標として研究を行っています。

 

―どのような点が評価されたと思われますか。

  第一に、「抗体に対して強い結合力を持つRNAアプタマー分子を、分子シミュレーション解析により開発することに成功した」ということが評価されたと考えています。RNAアプタマーを設計するためには、RNAの塩基配列を決定し、生体内での安定性を高めるため、各塩基に対して高度に化学修飾を導入する必要があります。RNAはアデニン、グアニン、シトシン、ウラシル(チミン)、アデニンの4種類の塩基の組み合わせによって作られている分子です。RNAアプタマーは、一般的に30塩基から50塩基程度です。したがって、その塩基配列の組み合わせだけでも、430-50通りにも及びます。SELEXという実験手法によって、塩基配列の決定プロセスはある程度簡略化できるようになったものの、塩基に対する化学修飾は、研究者による経験に頼らざるを得ない状況です。したがって、現状では、考えられるすべての修飾を導入したRNAアプタマーをそれぞれ合成し、その結合活性の測定を繰り返すというプロセスによって、RNAアプタマーの開発が行われています。
 第二に、「RNAアプタマーの開発は、量子化学的な視点に基づいて行われている」ということであると考えています。シミュレーションにより設計したと聞くと、最近ではAI(人工知能)が膨大な組み合わせを計算して、最適な配列や修飾を予測させるプログラムを開発したと思われるかもしれません。しかし私の研究は、そのような情報処理的な手法とはまったく異なります。
 私の研究はまず、RNAアプタマーがどのようにタンパク質を認識し結合するのか、その根底にある分子メカニズムを量子化学的に明らかにするところから始まります。そして、解析した分子メカニズムを用いて、分子の物理化学的な視点から、標的のタンパク質に対してより強く結合するRNAアプタマーの開発を行っています。
 ポスター発表の時間中、私の研究発表に、多くの研究者の方が聞きに来ていただけました。私のように計算化学からアプローチしている研究者もいれば、ウェット実験という手法でアプローチしている研究者もいたので、様々な角度から研究の議論をすることができました。私自身にとっても、これまでと違った視点で考える良い機会となりました。

 

―今後の目標をお聞かせください。

 これまで精力的に研究を進めてきたRNAアプタマーは、抗体(IgG)に対するものです。今後は、様々なターゲットに対するRNAアプタマーについても研究を進めていきたいと考えています。これまでの解析で明らかとした分子メカニズムが、他のRNAアプタマーでも同様に成り立つかどうか?研究を進め、RNAアプタマーの構造原理を明らかにしていきたいと考えています。ウェット実験では、解析することが難しい原子レベルで、RNAアプタマーの構造解析ができるのも、コンピュータシミュレーションだからこそ。この研究の魅力であり、最大の強みはそこにあります。RNAアプタマーの構造と標的タンパク質との普遍的な結合メカニズムを確立することができれば、様々なアプタマーを自在に設計することができるようになります。ゆくゆくは、治療が困難とされていた疾患に対する治療薬の開発につなげていくことが目標です。少しずつですが、その夢に近づいているように思います。
 私は現在、博士課程後期課程の学生であるのと同時に、日本学術振興会の特別研究員(DC1)という立場で研究を進めることができています。これまでとは違って、研究への責任もより重い立場になりました。また、自分の研究だけでなく、研究室の後輩の研究指導など、様々な課題を同時に進めていかなければなりません。壁にぶつかることも多々ありますが、自分の成長にもつながるので、しっかり取り組んでいきたいと思っています。

 

―ありがとうございました。今後の活躍も期待しています。

 

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