澱粉がどのようにゲル化するのかーそのメカニズムの解明に挑戦した研究が高く評価される

 この度、7月7日に行われた日本応用糖質科学会東北支部会若手研究発表会において、生命応用化学専攻博士前期課程2年の上沢七海さんが優秀賞を受賞しました。日本応用糖質科学会は澱粉をはじめとする糖質に関する食品科学や生命科学に関する研究を対象とする学会です。上沢さんの発表した『ホウ砂含有糊化澱粉の乾燥の速度論的解析』は、糊化した 澱粉の乾燥挙動の解析したものです。15件のポスター発表の中から優れた発表をされたと評価され、優秀賞に選ばれました。
 上沢さんに受賞の喜びと研究についてお話を聞きました。

 

澱粉がゲル化することで、様々な用途への応用が期待できます。

 

―優秀賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 学会での発表で賞をいただくのは初めてのことで、大変嬉しく思います。ご指導いただいた糖質生命化学研究室の小林厚志先生をはじめ、実験をサポートしてくれた後輩たちなど多くの方々のおかげだと深く感謝しています。これまでの学会で他大学の先生方と直接お話する機会があり、叱咤激励いただきながら鍛錬を重ねてきたことが、このような結果に結びついたのだと思います。

 

―研究について詳しく説明いただけますか。

 澱粉がいろいろな食品に使われていることは知られていると思いますが、工業用や医薬品まで様々な用途に利用されています。お米の成分も8割方は澱粉でできていますが、炊きたてのご飯は粘り気があってモチモチしていますよね。水分を吸ってお米が熱せられると米の成分であるアミロースとアミロペクチンの結合がくずれ加水分解が行われることにより粘り気が出てくるんです。この現象を糊化と言います。しかし、時間が経つと乾燥してカピカピの状態になります。これは水分が蒸発して元の澱粉に戻ってしまうためです。水分保有したゲル状を長く保つことができれば、食品を長く美味しく保存したり、様々な用途に利用できると考えられます。そこで私たちは、これまでに澱粉のゲル化に効果的な添加物について研究してきました。その一つがBorax(ホウ砂)です。Boraxは鉱物の一種でヒドロキシ基間をつなぐ架橋剤として知られていて、洗剤やスライムの材料などにも使われています。Boraxを添加することで少ない濃度でも保水力を高めることができるのでは考え、本研究でその効果を検証しました。実験は天然型のCorn Starch(トウモロコシ)、Wheat Starch(小麦)、Potato Starch(ジャガイモ)と人工的に作成したSoluble Starch(可溶性澱粉)の4種類の澱粉で行いました。添加物を入れた場合と入れない場合、水のみを加えた場合とでゲル化の状態を分析し、水分がどれくらいの速さで抜けていくのか、 また濃度はどれくらい必要なのかを調べました。

 当初は澱粉のゲル化に必要な最低濃度CCSGの値はBoraxの添加量が増加すれば、当然、架橋点(2 鎖状高分子の分子間に橋を架けたような結合をつくること)が増えるため濃度は下がっていくだろうと考えていました。実験結果から、天然型の澱粉は予想通りCCSGが下がる傾向がみられましたが、可溶性澱粉は予想に反してCCSGが上がることが明らかとなりました。さらに、糊化澱粉中のpKa値が9.2よりも大きくなれば四配位のホウ酸イオンが優勢となり、架橋構造ができやすくなると考え、加熱式水分計(写真上)を用いて糊化澱粉の乾燥速度を測定しました。結果、Boraxの添加によりCCSGの上昇がみられた可溶性澱粉と、CCSGが予想通り減少したトウモロコシ澱粉では、架橋構造が増加するほど水分減少速度が遅くなるという予想通りの結果となりましたが、いずれの澱粉においても同様の傾向がみられました。これらの実験から、Boraxは水を閉じ込める力が強く、水分が蒸発するまでに時間が掛かり、特に塩基性が高いと保水能も高いことがわかりました。

 

―どのような点が評価されたと思われますか。

 一番評価されたところは、研究に対する熱意だと思います。説明する際に、それが伝わったんじゃないかなと…。澱粉の実験は再現性を取るのが容易ではなく、どこまでが澱粉の物性かを判断するのが難しくなります。そこで、いろいろ計算式を駆使してデータを多角的に分析しました。これは小林先生のご指導のおかげです。それから、Boraxを添加物として使った点がユニークだと思われたのかもしれません。いろいろな用途に使われていますが、予期せぬ挙動を示すことがある未知の物質です。そのBoraxに注目したところが関心を集める要因になったように思います。

どうアプローチするかは自分次第。
だから、研究が楽しくなりました。

 

―なぜ大学院に進学したのですか。

 高校の先生の影響もあり、得意だった化学の教員になりたくて大学に入ったのですが、学部卒業までに教員免許を取得することができなかったんです。就職も考えたのですが、このまま社会人になるには自分がまだまだ未熟だと感じたことや、やはり目標だった教員免許を取りたいという思いから大学院進学を決めました。先輩から「マスターにいけば多くのことが学べて視野も広がるよ」とアドバイスされたのも後押しになりました。大学院では、研究の大まかなテーマは決まっていますが、どうアプローチしていくかは自分で考えるので、より研究が楽しくなりました。学会に行く機会も多く、研究へのモチベーションもあがります。研究はもちろん、教職課程の授業もあり、とても忙しくて大変でしたが、おかげで専修免許状まで取得することができたので、進学して良かったと思っています。

 

―今後の目標についてお聞かせください。

 本研究により、ゲル化には四配位のホウ酸が大きく影響することがわかったので、現在、澱粉ゲル中でのホウ酸の挙動について研究しています。ホウ酸の状態を識別することが可能であるラマンスペクトルに着目し、当学部の所有するラマン分光装置を使って実験を行っています。糊化澱粉中のホウ酸の平衡の状態を明らかにすることが目標です。小林先生や研究室のみんなにも協力してもらいながら、この研究を後輩たちに引き継いでいけるように成果をあげたいと思っています。

 

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

 

糖質生命化学研究室はこちら