有用な有機資源である澱粉の利用開発に向けた
ゲル形成のメカニズムを解明する研究が高く評価される

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 星野さんに受賞の喜びとともに研究について詳しくお話を聞きました。

 

―ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

2016%e6%97%a5%e6%9c%ac%e5%bf%9c%e7%94%a8%e7%b3%96%e8%b3%aa%e7%a7%91%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e3%83%9d%e3%82%b9%e3%82%bf%e3%83%bc%e8%b3%9e%e5%8f%97%e8%b3%9eimage002 ポスター発表はこれまで3回経験していますが、賞をいただいたのは初めてでした。嬉しい気持ちと、私がいただいていいのかなという不安な気持ちもありつつ、やはり評価していただいたことは大変光栄なことだと思いました。また、指導教員である小林厚志先生がいなければ、この研究もできませんでしたから、先生のおかげで受賞できたものと、深く感謝しております。

 

―研究について詳しく説明いただけますか。

 糖質生命化学研究室では、植物由来の再生可能資源である糖質の多様な性質を活用して、生活をよりよくするための有用物質の開発を行っています。その一つである澱粉は、これまでにも様々な食品や工業分野で広く利用されています。例えば調理に使われる片栗粉などの澱粉は、水に溶かし加熱すると、とろみがつきます。玩具として知られるスライムもドロドロとしたゲル状の物体ですが、使われている洗濯糊の主成分と澱粉の構造が似ていることから、澱粉を使ってスライム状の物質を作ることもできました。これらのことから、澱粉の種類によってゲル状になりやすい傾向が異なるのではと考えました。まず、いろいろな試薬を添加して、とろみの付き方がどう変化するのか、そのメカニズムを明らかにするための実験を行いました。最初に注目したのはホウ砂です。これはスライム作りの原料としてよく知られています。これまでの実験で、澱粉ゲルに対して塩基であるホウ砂を加えた場合、トウモロコシ澱粉ではゲル化が促進し、可溶性澱粉ではゲル化が抑制されるという正反対の結果になりました。本実験では、なぜそうなるのか、何に由来しているのか、その要因をつきとめるために、ナトリウム塩の影響について検証を行いました。
2016%e6%97%a5%e6%9c%ac%e5%bf%9c%e7%94%a8%e7%b3%96%e8%b3%aa%e7%a7%91%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e3%83%9d%e3%82%b9%e3%82%bf%e3%83%bc%e8%b3%9e%e5%8f%97%e8%b3%9eimage003 今回の発表では4種類のナトリウム塩である、水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸ナトリウム(NaCO) 、炭酸水素ナトリウム(NaHCO) と四ホウ酸ナトリウム( Borax)とで違いを比較しました。懸濁状態のサンプルを加熱処理後、ゆっくりと冷却します。直立に保存し、落ち着いた状態になったところで上下逆さまにします。下に落ちてこなければゲル状(半固体)であり、落ちてくればゾル状(溶液)ということになります。それぞれの塩基性について検証し、結果、次のようなことがわかりました。

  • ナトリウム塩すべてに共通する挙動は見られなかった
  • Borax(ホウ砂)を添加したサンプルにおいてゲル化の抑制・促進効果の逆転が目立った
  • 炭酸イオンを含んだ際にコムギ澱粉のゲル化抑制が観測された
  • 陰イオンが澱粉のゲル化に対して何らかの作用を起こしている

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―どのような点が評価されたと思われますか。

 ポスター発表の前日に行われた口頭発表で関心を持った方が説明を聞きに来てくださいました。1対1、または1対2でディスカッションしていましたから、審査員の方には有意義な議論が展開されているように見えたのではないでしょうか。質問に対して実験結果プラス自分なりの考察を持って答えていたので、それも評価されたのだと思います。しかし、どうしたら自分の考えを相手にわかりやすく伝えられるのかという課題も見つかりました。こうした機会を活かして、プレゼンテーション能力を磨いていきたいと思います。

 

―なぜ大学院に進学したのですか。

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―どんなところが研究の魅力ですか。

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―後輩たちにメッセージをお願いします。

 人に言われてやるのは楽ですが、嫌なこともあると思います。自分で考えてやる方が絶対面白いはずです。自分で考えたことなら、きっと結果を出したい気持ちが強くなり、研究に対する意欲も高まってくるでしょう。自ら考え行動する力は社会に出てからも必要になるので、学生のうちに磨いていけば将来きっと役立つと思います。

 

―ありがとうございました。今後の活躍も期待しています。