―化学と情報の融合による新しい教育ツールの開発―
化学教育に役立つ「AR技術を使った学習システムの開発研究」が高く評価される

 9月15日(土)、16日(日)に秋田大学手形キャンパスで開催された平成30年度化学系学協会東北大会において、生命応用化学専攻博士前期課程1年の武田伊織さんが優秀ポスター賞を受賞しました。会員約3万名を擁するわが国最大の化学の学会である公益社団法人日本化学会。本大会はその東北支部が主催するものです。
 バイオインフォマティクス研究室に所属する武田さんが発表した『化学教育への展開を目指した分子構造AR表示システムの開発』は化学教育分野での受賞となりました。
 武田さんに受賞の喜びと研究について詳しくお話を聞きました。

親しみやすいスマートフォンというツールを使って化学を学び、化学の面白さをわかってほしい
―そんな思いからこの研究に取り組みました。

 

―優秀ポスター賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 初めての学会発表でしたので、いろいろな不安を抱きながら学会の発表の準備を念入りに行いました。その結果、ポスター賞を受賞できたので大変嬉しかったです。表彰式ではスクリーンに表彰者の名前が映し出されるのですが、自分の名前が出た時は、密かに心の中でガッツポーズをしていました(笑)。とてもよい経験になりました。

 

―研究について詳しく説明いただけますか。

 私は、AR(Augmented Reality)技術を活用して化学を楽しみながら学ぶためのシステムを開発しています。ARは人が知覚する現実環境にデバイスを通してデジタル情報を追加し、知覚する現実を広げる技術です。スマホ用ゲーム『ポケモンGO』にも使われているように、近年、注目が高まっています。この技術を使えば、化学に対して興味を持っていただけるような教材の開発ができるのではないかと考えています。将来、理科の教員となることを目指し生命応用化学科に進学した私としては、何とかして理科、そして化学に興味を持ってもらいたいと思ったのが、この研究を始めるきっかけでした。
 今、開発しているのは大学生を対象とした分子構造AR表示システムです。分子の化学式を組み込んだマーカーを撮影し、3D分子モデルを画面越しの現実空間に重ねて表示させます。化学式から直接3D分子モデルが出現するため、2次構造では理解しづらい、分子の立体構造を瞬時に把握することができ、高い学習効果を発揮できると考えられます。現在、さらにより高い学習効果を持つシステムの開発に向け、既存のシステムを改良し、かるたのような『遊び』と組み合わせた新たな分子構造AR表示システムを提案しました。このシステムは、かるた遊びの絵札と読み札のように、化学式と名称マーカーで正しい組み合わせを探します。正解の場合、対応した3Dモデルが現れ、立体構造・化学式・名称を一貫して覚えることができるので、ゲーム感覚で楽しみながら学習できるのが大きな特長です。

―どのような点が評価されたと思われますか。

 非常に多くの方が説明を聞きに来られたことからも、AR技術への関心と期待度の高さを感じました。注目度の高いARという技術と化学とを融合させたことが最も評価されたのではないでしょうか。また、この技術を使って、様々な展開が図れる発展性のある研究だという点も評価されたのだと思います。本システムを活かして中高生向けの学習システムを開発してはとアドバイスされる方もいました。発表のポスターを作成するにあたり、山岸先生にご指導いただきながら、ポスターを見ただけで研究の内容が把握でき、またこの研究の面白さを伝えられるよう構成しました。当日の発表では、インパクトを与えられるよう、実際にタブレット端末を用いたデモンストレーションを行い、開発したシステムを説明しました。この点でも他の発表より、印象に残ったのではないでしょうか。

化学への好奇心が、研究への好奇心につながり、
そしていま、情報工学の技術を使って化学にアプローチしています。

 

―今後の目標をお聞かせください。

 様々な新たな仕組みを取り入れ、開発中のシステムをより発展させていきたいと思っています。また、教育の現場で実際に使われるようになればと願っています。これらの研究成果は、論文にまとめていくことも目標です。学習に必要なのは興味。学ぶ面白さを伝えるのが大事です。ポテンシャルを発揮できる原動力になり、化学の発展に少しでも貢献できたらと思います。また、化学だけではなく、数学など他の教科への応用も考えています。開発ターゲットに合わせて、より学習しやすいシステムを作れるよう、別の技術を組み合わせていけば可能性も広がると思います。

 

―なぜ大学院に進んだのですか。

 学部の3年生後期になると、配属を希望する研究室を決めないといけません。様々な研究室の研究内容について説明を受けた中で、バイオインフォマティクス研究室の「AR技術を使った学習システムの開発研究」にめぐり合い、とても興味を持ったことが、進学する上で大きなきっかけとなりました。配属が決まると、より早く研究に取り組みたいと思い、コンピュータ言語であるC言語を一から勉強し、ARシステムの開発を進めました。研究開発を進めていく中で、もっと研究を続けたいと思うようになり、大学院進学を決めました。初めは好奇心から研究につながっていくのだと思います。大学院に進んだことで化学教育に役立つシステムを開発できたので、やはり決断は間違っていなかったと思います。将来は教員も視野に入れながら、情報技術だけでなく、化学の知識を兼ね備えたシステムエンジニアになることも目標の一つです。

―ありがとうございました。今後益々活躍されることを期待しています。

 

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