天然ガス精製分離プロセスモデルの研究が
企業から高い評価を受ける

 この度、生命応用化学専攻博士後期課程3年の渡邊正輝さんが、5月25日・26日に行われた「分離技術会年会2018」において奨励賞(月島環境エンジニアリング賞)を受賞しました。分離技術会は、蒸留、相平衡、晶析、吸着、抽出、膜分離、吸収、粒子流体系分離、シミュレーション、その他さまざまな分離操作や分離プロセスに係わる技術者と研究者のための会であり、毎年行われる年会では、若手研究者の育成を目的として、学生による発表に対して学会から「学生賞」、企業から「奨励賞」を設けて表彰しています。渡邊さんが発表した「アミジウム系イオン液体の二酸化炭素/メタン選択吸収性」は企業から高く評価され、奨励賞(月島環境エンジニアリング賞)に輝きました。なお本件は、産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)との共同研究による成果でもあります。
 渡邊さんに、喜びの声とともに研究について詳しくお話を聞きました。

 

―奨励賞受賞おめでとうございます。感想をお聞かせください。

 どうもありがとうございます。初めて参加した分離技術会年会で、奨励賞を受賞することができ大変光栄です。企業関係の方はもちろん、他大学の先生方にも高く評価いただけたのも嬉しかったですね。発表後に、様々な研究機関や企業の方と研究内容について個別にディスカッションすることができ、とても刺激を受けました。一方、他大学の学生の発表も聴講しましたが、精度に気を払った細かいデータ収集や綿密にデータを解析していて、自分ももっと頑張らないといけないと強く感じました。今回の受賞に恥じないように、より一層、精進したいと思います。

 

―研究内容について詳しく説明いただけますか。

 火力発電所などで利用されている天然ガスは、液体にすることで効率よく貯蔵したり輸送したりすることができます。天然ガスの井戸元では、メタン(CH)などの炭化水素ガスと二酸化炭素(CO)などの不要物や環境汚染物質を分離する必要があります。分離方法の一つに、ポリエチレングリコール・ジメチルエーテルを主成分としたガス吸収分離溶媒を使用する物理吸収法(Selexol法)があります。高圧下においてCOの溶解度が高い反面、COとともに炭化水素ガスも多く溶解してしまい、炭化水素ガスを有効利用できていない問題があります。そこで、高いCO2吸収選択性を持つイオン液体をガス吸収分離溶媒として使用することで、この問題を解決できるのではと考えて研究に着手しました。今回、私が着目したのは、安価でガス吸収性に優れるアミジウム系のイオン液体です。これまで、アミジウム系イオン液体のアシル鎖長が密度・粘度・電気伝導度、CO2溶解度に及ぼす影響について検討し、成果の一部については、アメリカ化学会のJournal of Chemical and Engineering Dataに学術論文として発表しました。そこで本研究では、アミジウム系イオン液体の高圧密度やCH4溶解度を測定し、アシル鎖長がCO2/CH吸収選択性に及ぼす効果を検討しました。実験に使用したイオン液体は[DMFH][TFSA]、[DMAH][TFSA]、[DMPH][TFSA]の3種類で、自ら合成したものです。CH4溶解度の測定には、研究室独自で製作した1 mLと極少量の試料で実験可能な磁気浮遊天秤を使用しました。この装置は、ガス吸収前と後での重量の違いから溶解度を求めることができる実験装置です。実験の結果、[DMAH][TFSA]が最も低いCH4溶解度を示したことから、アミジウムイオン液体を構成するカチオンのアシル鎖の伸長に伴い、CH4溶解度は増加すると考えられます。しかし、分子が小さくなると密度が高くなるはずですが、分子が小さいにも関わらず、密度が低いという結果になりました。イオン液体のカチオンとアニオンの引き合い(分子間相互作用)が、この結果に深く関係しているものと思われます。この仮説を立証するためは、様々な手法によるさらなる検討が必要ですが、アミジウム系イオン液体のCOの溶解度が高い一方、CH4の溶解度が低いことで、ガス吸収分離溶媒としての有効性を示す大きな成果となりました。

 

―どのような点が評価されたと思われますか。

 一番は、研究の将来性を評価されたのだと思います。皆さんとのディスカッションを通じ、実用化に近い研究への期待の高さをひしひしと感じました。CO2やメタンの分離装置などを製作しているエンジニアリング会社に選んでいただいた賞であり、自社製品の開発にも活かせると思っていただけたとしたら、大変光栄なことです。

 

―今後の目標についてお聞かせください。

 現在は、違う種類のイオン液体のガス選択性についても調べていますが、そこまでの成果を学術論文にしたいと考えています。いろいろ試行錯誤してきた中で、最もガス分離選択性の高いイオン液体を使って天然ガス精製分離プロセスモデルを構築し、社会実装することが一番の目標です。所属する環境化学工学研究室が共同研究を進めている海外の大学での研修も内定しています。世界トップレベルの研究者に指導を受けられる機会は滅多にないことですから、今からとても楽しみにしています。

 

―最後に後輩たちにメッセージをお願いします。

 研究は失敗ばかりで、上手くいかないことの方が多いものです。共同研究者や指導教員からの研究に対する厳しい指導もあり、落ち込むことも多々ありますが、こうして自分が論文の筆頭著者となれることは感慨深く、研究の醍醐味を感じます。初めは言われるがまま研究を進めていましたが、自分自身で計画し、目標を定め、それを達成できるようになれば、研究が面白くなってきます。自分ならこうしたい、こうできる、次はこうしようと考えることが重要であり、それが研究をより楽しくさせる秘訣でもあると考えます。そんな研究の醍醐味を味わいたい後輩が1人でも多く現れてくれることを願っています。

 

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