建設業界の動向と就職戦線

教授 千葉正裕

 日本経済新聞社が主要30業種を対象に四半期毎に発表している産業天気図があります。 2012年10〜12月期の産業天気図予測は,晴れ=0,薄日=6,曇り=13,小雨=9,雨=2。 スマートフォンの販売が好調な通信は「薄日」,その恩恵を受ける形で電子部品・半導体 は「雨」から「小雨」に改善されています。建設・セメント業を見ると「曇り」。今後, 被災地の工事需要が一層伸びるであろうという期待は高まっているものの,建設資材およ び人材不足が大きな課題になっているため,「薄日」が差すまでにはまだまだ時間がかか りそうです。実際に,国土交通省がまとめた2011年度工事契約実績は前年度の26.9%の大 幅増でしたが,入札辞退の件数に関しては12.1%増加していました。被災地での技術・技 能者不足がその大きな要因を占めているものと思われます。  復興元年と位置づけられた2012年。人,地域,国をあげて,復興を礎にした事業が展開 されています。しかし,現状は大変厳しいものです。いまだ被災3県のがれき処理は,8月 末までで25%程度しか進んでおらず,原発の問題も含め,本当の意味での復興が始まるの は,2013年以降になりそうです。  国土交通省が10月7日に発表した2013年度予算の概算要求は,東日本大震災からの復興 とともに,災害に強い国づくりに向けて全国の防災・減災対策を推進することに力点を置 いたものでした。民間の知恵と資金を活用しながら,持続可能で活力ある国土・地域を形 成し,デフレ脱却や経済活性化につなげていくという姿勢も見せています。公共事業のみ ならず,民間レベルでの耐震補強,防災対策,エネルギー確保など,住宅リフォーム関連 の需要も高まりを見せ,建設業界の求人は増加するとの見方が出ています。  こうした状況の中で,大学生の就職戦線にも追い風は吹くのでしょうか。  2012年3月卒業・修了者の就職状況を見ると,本学部全体の就職内定率は92%でした。 先に発行された創建「平成23年度建築学科就職状況報告号」にも掲載された通り,建築学 科においては復興特需の恩恵もあり,震災後の厳しい状況の中でも96%という実績をあげ, 全国平均の93.6%を大きく上回る結果となりました。2013年3月卒業・修了生の就職活動 も終焉を迎えようとしていますが,採用状況が変わったことで就職活動にも大きな影響を 与えました。これまで10月から開始されていた企業の広報活動が2カ月遅れの12月からと なったのです。  就職活動期間が短縮されたことで,全国的にもハードルの高い大手企業へのエントリー を控え,中小・中堅企業へのアプローチを優先させる堅実志向にシフトしたようです。工 学部でも復興に貢献したいという意識が強く,地元企業への就職を志望する学生が多く見 受けられました。企業側の新卒採用意欲は前年よりやや上昇したものの,短縮された採用 期間の中でも面接回数を増やしていることから,「質重視・厳選採用」の傾向は一層強く なっているものと考えられます。  その背景には,「社内ニート」も影響しているのではないでしょうか。リーマンショッ クによる景気低迷以降,企業の生産活動が縮小して仕事が減ったことで,実際の常用雇用 者数と最適な雇用者数の差が生まれ,内閣府の調査では今年9月時点で全雇用者の8.5%に あたる最大465万人が「雇用保蔵」状態に陥っているというのです。また,職場では若手 社員を育成する余裕がなくなり,放置されたままの「社内ニート」がその増加に拍車をか ける形となっています。企業もこれ以上「社内ニート」を増やしたくはないはずです。 そこで求められるのは,企業が育てるのではなく,“自ら育つ”人材というわけです。 じっくり一人ひとりを分析し,そうした素養を持ち合わせているのかどうか見極めるため, ますます面接を重視していくものと思われます。  ではいったい“自ら育つ”人材が持ち合わせている素養とは何でしょうか。まずは,自 分自身で問題,課題を見つけることができる能力です。与えられた仕事しかできないので はなく,自ら仕事を産み出すくらいの人間でなくてはなりません。次に,問題や課題に対 しどのように対処するか,課題解決能力の高さが問われます。面接では「失敗した時にあ なたはどうやって乗り越えましたか」とよく聞かれます。失敗したことが問題ではなく, 壁にぶち当たった時,どう対処できるのか,その人の技量を測っているのです。「若い時 の苦労は買ってでもせよ」という諺もあります。苦労を経験せず楽に立ちまわれば,将来 自分のためにはならないと諭しているのです。困難なことにも逃げ出さず,敢えて挑戦し ていくぐらいのモチベーションを持つ人間が,これからの時代には必要とされるのでしょう。  建設業界の求人の売り手市場も,一過性のものかもしれません。復興事業が終わった頃 には,「社内ニート」になっている可能性もあります。常に自分を高める努力をしていく ことが大切です。特に,復興に貢献したい人には,やる気がある,元気があるだけでなく, さまざまな問題に立ち向かう勇気と課題解決能力を身につけてほしいと思います。                                    (広報担当)