構造技術者のキャリアプラン

教授 浅里和茂

 昨年6月に施行された改正建築基準法,一時は天下の悪法とまで嫌われ,建築業界では 6.21不況という言葉まで定着し,さらにはGDPを押し下げるのに一役買ってしまいました。 これに続いて今年11月28日には改正建築士法が施行され,一連の法改正の流れは一段落し ました。ここでは,建築士法改正の要点を知ってもらったうえで,少しだけ自分の将来に ついて考えてもらいたいと思います。  高校時代,建築学科に進学を決めたとき,一級建築士の資格取得を目標に掲げた人も多 いと思います。一級建築士の試験に関しては,受験資格として学歴に関する要件が変わり ました。これまでは建築学科を卒業していればよかったのですが,今後は国土交通省によ り指定された科目を受講した上で卒業しなければいけません。ただし,これは平成21年度 入学生から適用されるので在学生は無事に卒業できれば問題ありません。さらに,学科試 験科目は21年度から計画・法規・構造・施工の4科目だったものが,計画・環境設備・法 規・構造・施工の5科目になり,五者択一から四者択一に変わります。実技試験(製図) は,文章記述などが増え,試験時間も延びる予定です。また,受験するためには二年間の 実務経験が必要ですが,経験とされる業務内容も見直されて厳しくなりました。これまで 大学院の二年間も認められていましたが,実務経験とするためにはインターンシップが必 要となります。  建築学科ではこのような変更に対応するため,平成21年度入学の学部生と大学院生に向 けてのカリキュラム変更を予定しています。学部では指定科目を必修科目として,卒業と 同時に学歴用件を満たすことができるようにしています。大学院では設計演習やインター ンシップを科目として設置して,必要単位を修得することにより,一年間の実務経験とな るように検討を重ねています。来年度からの大学院生にとっては実務経験の点で少し物足 りなく感じるかもしれませんが,今年の学科試験合格者の平均年齢が32歳ということを考 えると大きな回り道にはならないと思います。いずれにせよ卒業後に実務経験を積んだら すぐに受験申込をして,受験票をもらっておくことを勧めます。一度,受験資格を得てお けば,この先制度が変わっても簡単には失うことがないからです。  では,現在すでに一級建築士として仕事をしている人たちにとって今回の改正はどんな 意味を持っているのでしょう。建築士にはこれまでの5年に一度の任意講習会から,定期 講習が3年ごとに義務付けられ,事務所の代表である管理建築士も専門の講習を3年ごと に受けなければならなくなりました。ただし,実務上の最も大きな変更は構造設計一級建 築士と設備設計一級建築士という新しい資格が創設されたことでしょう。構造を例にとる と一定規模以上の建築物の構造設計は,構造設計一級建築士でなければ手がけられなくな ります。それ以外の建築士が設計した場合は,有資格者のチェックを受けなければ,確認 申請を受け付けてもらえません。さらに確認申請受付後は,構造のダブルチェックである 構造計算適合性判定(通称適判)を受け,専門的な審査が行われます。このため設計に占 める構造技術者の役割は,ますます重要になってきます。今回の一連の法改正は制度の厳 格化により,建築士の減少と零細設計事務所の廃業まで引き起こすのではないかと考えら れています。そして,この改正により国土交通省は,建築士資格を社会的地位の高いもの にしていきたいという意図をもっているような気がします。  このような社会情勢の中で,どのようなキャリアプランを考えればいいのでしょうか。 高度な専門知識を持った構造技術者は将来にわたって不足してきます。建築士試験は合格 率も低く,あきらめている人がいないでしょうか。試験は確かに簡単ではありませんが, 大学での知識と卒業後の仕事から得られる経験的知識を合わせれば十分対応できるもので す。ハードルとなるのはこれらを試験対策としてまとめることを仕事と両立する努力を続 けることができるかでしょう。また,法律で資格がなければできないとされた仕事,これ を業務独占といいますが,このような限られたものだけが携わることができる仕事に,高 い倫理観と専門知識を持って臨むことに意気を感じることはないでしょうか。ぜひ,最初 の目標を見失うことなく,自分のこれからのキャリアプランを真剣に考えながら,大学生 活を送ってもらいたいと思います。