『わが家は安全か』

教授 黒田浩司

 1995年1月17日に発生し多大な被害をもたらした兵庫県南部地震から8年が経過した。 当時小学校高学年生から中学生であった学生諸君は,記憶から遠ざかりつつあるかと思 われる。よく天災には忘れた時分に襲われると云われている。  福島県内で被害の記録が残されている地震は,震源を会津地方とするものと福島県沖 とするものが有り福島・郡山・白河市を結ぶ中通りには無い。会津地方では,1611年9 月27日にM(マグニチュード)6.9で若松城下およびその近郊において死者3,700余名建物 2万余棟の大被害を出した地震,1821年12月13日(M6.1)に大沼郡大石組(金山町川口付 近)の狭い範囲で建物の大破130棟破損300棟に死者若干名を出した地震,1943年9月10日 (M6.2)の田島地震(あまり被害は出なかった)等があり100年から200年の間隔で生じて いる。  太平洋側では1677年11月5日にM8の地震が発生し磐城から房総かけて津波が生じ県内 では小名浜から四倉で死・不明者130余名をだした地震,1938年5月23日に塩屋崎沖で発 生したM7.1の地震では小名浜付近の沿岸と福島・郡山・白河を結ぶ中通りおよび郡山・ 会津若松を結ぶ地帯で250棟の建物被害を出した。また,同じ年の11月5日にはM7.7の福 島県東方沖地震が生じた。この地震はM7前後の余震が11月末まで多発し,死者1名, 住・非住家の全半壊90余棟の被害を出した。以来M7クラス以上の地震は65年間発生し ていない。  仙台市を中心に大きな被害をもたらした宮城県沖地震から25年が過ぎようとしている。 政府の地震調査研究推進本部発表によると宮城県沖地震は平均37年の間隔で繰り返し発 生していると評価し,地震観測の強化方針が出されたとのことである。同一地点での大 地震の再現期間は100年,数100年,あるいは,数1000年いうオーダーであるがいつ何処 で発生するか現時点での予測はできない。  ところで,教室で震度2,3程度の地震を経験されたと思う。その時どの方向に揺れ たか憶えていますか。教室棟は東西方向に教室が並び長く,南北は教室と廊下の2スパ ンで短く長方形をしたRCまたはSRC3階の建物で,現耐震設計法(1981年以降)以前 の設計法によって設計されたものである。たとえば,南北方向に揺れたとする,なぜ南 北方向に揺れたかを考えてみよう。教室と教室との間には壁がある。この壁は耐震壁な のか,木造等の間切仕壁かによって異なり,耐震壁が多けば揺れは少なくなるだろう。 一方,東西方向は南・北面とも窓,教室と廊下の仕切りには出入口,窓などが有る場合 が多く耐震壁は無いのに揺れが小さいのは何故か。南・北面の窓には腰壁,下げ壁が付 いていて柱の変形する部分が短い(短柱,極短柱)。耐震診断を行なうと東西方向の方 が耐震性が少ないという結果となるのがほとんどである。耐震性の有無は骨組の耐力 (曲げ,せん断,軸方向力)だけでなく,それに伴う変形能力(靱性)にも関係する。揺 れたからといって耐震性が小さいと限らない。骨組を構成している構造材料によって異 なる。材料の性質,構造材の性質,応力の伝達機構を熟思して耐震性の有無を考える必 要がある。  地震被害にあった建物の主な被害状況を示す。 ○木造住宅;耐力壁不足/バランスの悪い耐力壁の配置/柱・土台接合部不良       不適切な筋かいの設置と筋かい端部接合不良/木材の腐食,蟻害 ○RC造;1971年以前の建物で柱のせん断破壊      1981年以前の建物で壁が偏っているもの,中間層の強度不足,      ピロティ形式など剛性や強度のバランス悪いもの。 ○S造;柱脚部の強度等の不足/柱・はり接合部,継手等の設計又は施工の不備による 耐力不足(溶接部など)  1995年1月に発生した兵庫県南部地震では多数の建物に被害が生じ,多くの貴重な人 命が失われた。この地震では,現耐震基準を満たさない1981年以前に建設された建築物 に特に大きな被害がみられた。旧基準で建てられた建築物対して「建築物の耐震改修の 促進に関する法律」が同年12月25日施行された。福島県では,即対応し翌年から耐震診 断が行なわれ,小・中学校建築物等公共的な建物で,対象建築物の約7割が診断を終了 し改修も始まっている。ただし,私有の建築物については,ほとんど行なわれていない。  いつ大地震に襲われるかわからない。そこで,わが家の耐震診断と対策をやろう。下 記に木造住宅を主としたリーフレットや小冊子を紹介しますので,わが家が地震に対し て安全かどうか確認してみよう。 ・わが家の耐震診断と補強方法 (財)日本建築防災協会・(社)日本建築士会連合会 ・わが家の耐震               日本建築学会編 ・わが家の地震対策             日本建築学会編 ・あなたの建物は地震に対して安全ですか 福島県土木部都市局建築住宅課 ・地震にそなえて(わが家の耐震知識)             (財)日本建築防災協会・(社)日本建築士会連合会 ・あなたの建物は安全ですか         (財)日本建築防災協会 ※参考文献;  日本被害地震総覧 宇佐美龍夫著 東京大学出版会  理科年表 滑ロ善