『ユニバーサルデザインの思想とバリアフリーの目』

助教授 松井壽則

 昭和50年(1975年)に事業認可を受けた郡山駅前再開発事業も,二十有余年が過ぎた 本年初頭に完成し,ようやく郡山市の顔が整った感があります。再開発事業は完成まで 多くの期間を必要とはしているものの,この駅前再開発事業は計画の内容が二転三転し たこともあり,このように長い期間を要したものと思います。  駅前広場を中央に配置し,それを挟むように路線バスのプールとタクシー・乗用車の 昇降に供するロータリー,地上24階,地下1階,塔屋3階の約133mの愛称「ビッグアイ」 が聳え立ち,駅ビルとはペデストリアン・デッキで結ばれていることは,多くの人の知 るところです。しかし,此処では事業の完成に要する期間の長さを云々するのではなく, 事業認可の受けた時代と二十有余年経った現在において,私たちの生活に関わる環境・ 空間に対する考え方やそのあり方が大きく変わってきていることを述べたいと思います。  まず,その一つがバリアフリー(BF)です。BFということばが使われ始めたのは 1970年代前半で,それ以前は,「障害者のための(for the Disabled)」という表現で した。障害者の中でも車いす使用者を対象とした考え方でしたが,徐々にその対象範囲 も広がり,1981年の国際障害者年を契機にその対象は,いわゆる一時的に障害を有する 人々にまで範囲を広げ,生活環境の改善を提案してきました。現在は対象者を子供から 高齢者までをその範囲と考えられています。BFは障壁を除去することを意味し,心理 的,物理的,社会的な障害を取り払うことです。つまり,その人の生活を保障する最低 限の守るべきものと位置付けています。  さらに,もう一つの考え方がユニバーサル・デザイン(UD)です。最近よく,この 「ユニバーサル・デザイン」ということばをよく耳にしますが,UDは,ノースカロラ イナ大学のロナルド・メイス氏よって1990年代に入って提唱されたものです。氏はポリ オによる障害を持つ建築家でもありましたが,その提唱した内容は,UD7つの原則と してまとめられてあり,私たちの生活環境を取り巻く,物,建物,空間など,すべての ものをできるだけ多くの人々が利・使用できるようにするという考え方です。つまり, 特化されたあるいは限定された範囲に供与するものではないということです。そのため には,初めから障害となるものをつくらないという前提となる姿勢があります。しかし, RFの中にこのような考え方がないわけではなく,例えば前述した対象者の拡大による 「より多くの人が使える」という考え方は,UDと同様の考え方を内在していると思い ます。ただし,BFには,障害となりうる装置,建物,空間などの障壁を把握し,さら に,その障壁を除去するための方策を構築する姿勢があります。このように,BFは障 壁を解消するという考え方で,UDは障壁をつくらないとする考え方であることから, 障壁となる事項を発見するBFと障壁をつくらないように解決するUDとは,いわば車 でいえば両輪の関係にあるものといえます。  ところで,このような見方で郡山駅前広場を見てみると,さまざまな気づき,発見が あります。ペデストリアン・デッキと結ばれている多くの人々の利便性を考慮に入れた エスカレーターやエレベーターが設置されています。また,中央の広場およびタクシー 等のロータリーには,視覚障害者に配慮した音声案内がある盲導鈴の設置,並びに視覚 障害者用誘導・警告ブロックの敷設などが施されています。これらの設置された設備の みを検証するだけでなく,そこに至るための動線の簡便さ,サイン計画の適正さ,およ びその見やすさなど,多岐に渡って見渡すと,障壁の発見があるであろうし,子供や高 齢者並びに障害者などの利用者の目でみると更なる発見があるのではと思います。  建築に係わり合いのある私たちが,UDの思想を持ち,BFの目を備えて建物や街を 探索することは,大いに意義のあることと理解します。