『4コース制となる建築学科』

教授 出村克宣

 本学部では,新しいカリキュラムが今年度からスタートします。建築学科では,「建 築エンジニアリングコース」,「建築デザインコース」,「アーキテクトコース」及び 「国際工学コース」の4コースを設置しました。このようなコース設置の背景などを紹 介して巻頭言にかえたいと思います。なお,このカリキュラムは平成13年度入学の学生 諸君を対象にしたものですが,建築学科の教員は次に述べるようなコース設置の思想を もって,現行のカリキュラムによる教育に携わっていることを,ことわっておきます。  さて,平成12年6月1日施行の建築基準法の改定においては,性能規定化が大きなポイ ントの1つとなっています。一般に,法令の技術基準は,「仕様規定」と「性能規定」 に分けることができると考えられています。例えば,「***部材は,○○cm以上にしな ければならない。」や「次のいずれかに該当するものは,防火構造として取扱われる。」 などのように,建築物の構成部材などについて,その寸法や材料を具体的に定めている のが「仕様規定」にあたります。一方,「性能規定」とは,その物理的な性質などを示 す「性能」を定めるもので,「***振動数の音に対する透過損失がそれぞれ同表の下欄に 掲げる数値以上であると認めて指定する構造であること。」などのように記述されてい ます。つまり,要求される性能が得られれば,材料の種類や寸法にはこだわらないとい うことになります。今回の建築基準法の改定によって,このような性能規定の部分が多 く取り入れられるようになりました。性能規定化によって,建築物の設計の自由度が増 し,新しい材料や技術も有効に利用できるようになります。又,その基準の趣旨が明確 になるともいわれます。その反面,設計された建築物やその構成部材が要求性能を満足 するものであるかどうかの評価が重要になり,性能評価のための試験方法や解析方法を 充実し,性能の判定を慎重に行う必要があります。このような性能規定化が可能になる のは,社会の技術水準が高いことを反映するものでもありますが,それは,すなわち, 建築に携わる者に求められる技術水準が高いことを示しています。従って,我が国にお ける建築関係の仕事に従事するに当っては,「建築士」の資格を持つことが要求されま すが,建築士に要求される技術水準もますます高くなると考えられます。  一方,我が国では,多くの分野で国際化が叫ばれており,建築分野においても,建築 教育の国際化対応の議論があります。その1つとして,国際建築家連合(UIA)の「建 築実務におけるプロフェッショナリズムの国際推奨基準に対する協定」に基づく建築教 育があり,基本的には,5年間以上の教育が必要とされています。建築学科では,「ア ーキテクトコース」としてその教育プログラムの一部を取り入れ,建築デザインコース を基礎として,建築倫理,建築企画論,地域計画論,デッサン,コラージュ,オープン デスクなどの新しい科目を設置して対応しています。もう一つの国際化対応のコースが 「国際工学コース」です。日本建築学会も設立発起人団体の一つとなって,日本技術者 教育認定機構(JABEE)が設立されています。JABEEは技術者教育のシステムを 認定するもので,評価されるのは教員自身ですが,学生諸君に対する教育成果の評価基 準の一つがFE(Fundamentals of Engineering)試験になると考えられます。そのため, このコースでは,建築エンジニアリングコースに設置の科目に加えて,FE試験に対応 した共通基礎科目(基礎教育科目)の工学一般系科目を必修科目としています。  新しいカリキュラムを見たときに,学生諸君はどのような感想をもつでしょうか。新・ 旧カリキュラムとも,基本的に設置科目に大きな変更はなく,アーキテクトコース及び 国際工学コースでの新しい科目が増えています。又,すべてのコースにおいて,建築士 受験の基本的な科目については,必修又はコース必修としており,これまでのカリキュ ラムに比べて選択科目の数が少ないのが特徴です。これは,上述したような背景のもと, 建築に携わるものが基本的に修得すべき学問については,選択の余地はないだろうとの 考えに基づくものです。  最近のIT革命のなかで,建築教育にもIT対応の授業体制やビジュアル化が要求さ れています。そこで,新しいカリキュラムに加えて,建築学科では,各製図室に40台づ つのネットワークコンピューターを設置しました。CAD教育が日常的に行えるように 配慮したものですが,いろいろな授業に活用していきたいと考えています。  最後に,最近読んだ本に「ローテクの最先端は実はハイテクよりずっとスゴイんです」 (発行所ウエッジ)というのがあります。もともとローテクというのは無いと考えてい ますが,何が書いてあるかというと,熟練技術者たちの「技」の話です。彼らの技術が, 実は,ハイテクを支えていると指摘しています。ここでいうハイテクを現代の建築物に 置き換えれば,建築の基本をしっかり身に付けてハイテクに立ち向かえといえるのでは ないでしょうか。                         (主任教授)