福島県の将来像とロハスの家

 2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image002原子力発電所の事故を含む未曽有の災害をもたらした東日本大震災から1年が過ぎ、福島県が今後の復興計画の理念の一つとして掲げているのが「原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」。その実現には、再生可能エネルギー活用促進が重要な鍵を握っています。
 本学部では、福島県の復興に貢献することを目的に「福島県発の災害に強く自立共生が可能な住環境の創成に関する研究」プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトは「平成24年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」に採択され、進行中のロハスの家の研究に加え、家の基礎の耐震化、橋や道路の防災・保全などをテーマに13名の研究者による学科を越えた横断的な研究を進めています。
 そのプロジェクトの一環として企画された5回のミニシンポジウム。本学部が取り組む研究を広く市民の方々に知っていただき、福島県の復興について市民の皆さまとともに考え、ともに築2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image004いていくことが狙いです。第1回シンポジウムは、9月30日(日)郡山駅前のビックアイで行われました。プロジェクトに携わる本学部の教員2名が「福島県の将来像とロハスの家」をテーマに講演し、その後、市民の皆さまからの意見や質問を交えて意見交換会を行いました。講演に先立ち、プロジェクトリーダーで司会役を務める土木工学科中村晋教授からご挨拶と本シンポジウムの主旨について説明がありました。「日本大学が推進するロハスの考え方とそれを支える技術であるロハスの工学とはどのようなものか、日本大学工学部がどう取り組んでいるのかを知っていただきたいと思っています」。

 それでは、シンポジウムの内容を簡単にご紹介しましょう。

「世界に向けロハスのデザインを発信する」 機械工学科教授 柿崎隆夫

2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image006 シンポジウムの先陣を切って登場したのが、機械工学科の柿崎教授。サステナブルなシステムに関する研究を進める中、今年6月には国連主催の持続可能な開発会議「Rio+20」に出席し、福島県の復興とロハスの工学を世界に発信する基調講演の大役を務められました。
 柿崎教授は、「今回のシンポジウムは、福島県の将来像を考えるチャンスです」と口火を切り、本学がどのように福島県の復興に寄与しようと考えているのか、その骨子について説明されました。

 

■日本大学工学部が推進する地域復興への取り組み

 福島県を健康で持続可能な社会にすることをめざして、日本大学工学部が推進する地域復興の取り組み「サステナブルふくしま」では、さまざまなプロジェクトを進めています。
2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image008 復興、災害に強い、エネルギー自立、自然と共生するコミュニティをキーワーズに、それぞれ研究者が重要な研究テーマに挑んでいます。中でも大きな二つのテーマがあり、その一つは「エネルギー自立環境共生型住環境をつくる」ことです。福島県は復興計画の中で、2040年頃には県内のエネルギー100%以上を再生可能エネルギーで賄うと宣言しています。そうしたことも視野に入れて研究開発を進めていかなければならないと思っています。もう一つは「災害に強いインフラストラクチャをつくる」ことです。社会基盤がなければ、住環境が成り立ちません。地滑りや橋の崩落など災害の問題や老朽化したインフラの問題などについて研究を進めていきます。

 

■ロハスをデザインする キーワードは「エネルギー」「健康」「安心安全」

 日本大学工学部では、ロハスの工学という新しい研究分野に挑戦しています。「ロハスの家」や「浅部地中熱」の研究が精力的に進められている中、「ロハスのデザイン」など新しい挑戦が始まっています。(世界おける研究動向を紹介:省略)
2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image002 私たちのラボで進めている研究の一つは、再生可能エネルギー活用環境を観察できる「見える化」の研究です。その導入として、ロハスの家3号の24分の1のミニハウス、太陽を模擬した人工灯や、自然の風を模擬したブロアを使って、1日の消費電力や室内環境を加速して数値化するモニタリングシステムを開発しています。このシステムを実際の住宅の「見える化」へと応用していく予定です。
 ロハスの工学のもう一つの重要なテーマは、人間の健康です。そこで我々の研究室では、体の不自由な方を支援する「ロボットを活用したライフサポートシステムの研究」を進めています。
 さらに、福島県の除染活動を助けるロボットとして、特に危険が伴う屋根の除染作業を代替するロボットシステムの研究を進めています。家もロボットも全てサステナブルな機械システムとして捉え、そのデザインを追求しています。

 

「福島復興におけるロハスの家の役割」 機械工学科准教授 伊藤 耕祐

2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image012 ロハスの家研究プロジェクトの中心的な研究者の一人であり、「福島県浅部地中熱利用技術開発事業」を受託し、地中熱センターを立ち上げその研究に従事する伊藤准教授。本学部への進学を希望している高校生をはじめ、企業や研究者、行政、一般の方々まで幅広い見学者が訪れる中、ロハスの家の魅力を紹介する大切な役目も担っています。 
 本シンポジウムでは、ロハスの家研究プロジェクト、そして地中熱利用の取り組みについて紹介しました。

 

■ロハスの家研究プロジェクト 「電力」「熱」「水」の自立をめざして

 枯渇エネルギー資源の問題が叫ばれている中、本学部では10年以上前から、健康で持続可能な生き方を実現するためのロハスの工学をスローガンにさまざまな研究を行ってきました。
 そして2008年に、ロハスの家プロジェクトが始まったのです。ロハスの家1号では最新のハイテク機器を集めてエネルギー自立を可能にする研究を、2号ではハイテク機器をあえて使わ2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image014ず、パッシブデザインと運用の工夫だけで快適な住環境をつくる研究を進めました。2号のパッシブデザインコンセプトを基本として、1号のハイテク技術も適度に取り入れた「本当に住める家」が3号です。テーマの一つが快適な住環境の形成、そしてもう一つが水の自立です。家が建っている場所内で得られる雨水だけを利用して生活用水を賄うというものです。1・2号のコンセプトである電力と熱の自立に加え、3号では水の自立をめざします。

 

■地中熱を利用した福島県産業復興への取り組み

 現在、一般的には100mくらいの地中の熱を利用していますが、私たちは浅い地中部分の熱を利用できないかと考えました。年間の地中温度の変化を調べてみると、10m以深は通年ほぼ15℃で一定であるのに対し、3mから10mでは季節により変動しています。この変化を上手く利用すれば、浅部の地中熱でも十分な実用性があることがわかってきました。そこで、ロハスの家1号では、家を支える耐震のための長さ4mから6mの基礎杭を利用して熱を取るシステムを開発しました。この杭は郡山市の設計事務所が開発したブレードパイル工法という技術で、免震効果もあることがわかっています。
2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image016 こうした地中熱の利用技術を使っていくつかの大型プロジェクトも動いています。福島県復興計画の一部を担うプロジェクトでは実用技術を確立することを目的に、本学部の敷地内に福島県独自の「浅部地中熱センター」を設置し、学生が中心となって研究を進めています。福島県は、設置コストが大幅に削減できるブレードパイル工法をどんどん普及させることで、産業の活性化を狙っているのです。「地域イノベーション戦略支援プログラム」に採択された福島県のプロジェクトでも再生可能エネルギー利用システムの研究を進めていきます。そのため、4名の専任研究員が本学部に着任されました。新しいメンバーも加わってよりいっそう研究が盛り上がっています。
 エネルギー自立、自然共生のロハスコミュニティを福島から世界へ発信し、福島県が先進モデル県となることを願っています。

 

産学官民が思いを一つにする「意見交換会」

 講演後に行われた意見交換会では、行政、企業、市民、大学それぞれの立場から意見や質問が飛び交い、有意義なディスカッションの場となりました。
 まず県議会議員の渡辺義信氏から次のようなご質問をいただきました。その後のやり取りとともに「意見交換会」の様子を紹介します。

2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image018渡辺氏:復興に関して産学官連携が大事だと言われていますが、行政との関わり合い、政策としてどのような展望があるのかお聞きしたいのですが。

中村教授:個々の研究プロジェクトは動いていますが、政策への展開が行わ2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image020れていない現状にあります。柿崎先生、実際はどうなのでしょうか。

柿崎教授:実は動き始めた再生可能エネルギープロジェクトの中で、ようやく大学間の距離が縮まってきたところです。今後は産学官の縦糸と横糸をつないでいきたいと思っています。また、こうした会を含めて、もっと情報発信を増やしていくことが大事だと考えています。

伊藤准教授:原発が止まって、どうやったら発電量を増やせるかばかりが議論されています。石油を燃やして得た熱を電気に変換して送電し、それをまた熱に変換して暖房しており、変換のたびに多くのロスが生じています。どうしたらエネルギーを有効に活用できるか、一般にはあまり議論されていません。熱は熱として利用するのが効率的なのです。大学は、今できないことをどうしたらできるかを考える役目を担っています。そうした大学の取り組みを学生たちには社会で活かしてほしいと思っています。しかも、福島の復興は待ったなしです。市民の皆さまにもご協力をお願いいたします。

中村教授:実現に近いパッケージ、要素技術が揃っているのが大学の強み。逆に大学としてはどんなアプローチをするのがよいか、行政のお立場からのご意見を伺いたいのですが。

渡辺氏:確立されていない技術を取り上げるのはなかなか難しい。但し、モデル事業としては取り上げやすいと思います。マスコミに出してもらって議会を動かし世論を醸成すれば、具体化できるのではないでしょうか。

中村教授:なるほど。要素技術を具体的にどう使えるか、情報発信が必要だということですね。

2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image022企業の方:今回のプロジェクトに大変興味があります。特に地中熱利用に関してはニーズもあると思いますが、企業としてはどうビジネスに活かしていけるかが大事になってきます。企業としてのアイディアを持って参加していきたいと思っています。

中村教授:これを契機として、実用化に向かってよりいっそう連携を深めていきましょう。

伊藤准教授:家・コミュニティとなると試作するのが難しい。実証実験に協力していただける企業や自治体が必要なのです。福島県の発展のために、ともに協力していきたいと思います。まずは是非、ロハスの家を見学に来てください。

市民の方:消費者側としては、どうしたらそのシステムを利用できるのかを教えてください。

柿崎教授:全部のシステムとなると難しい状況ですが、一部の要素技術をトライされているところもあります。関連企業や大学に相談してもらえればよいかと思います。地域イノベーションプロジェクトでも5年後の事業化スタートを目標としています。一部の技術は今からでも利用できますが、将来の骨太の産業として確立できる設計や施工の標準化をめざしています。

2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image024伊藤准教授:欧米と日本は地質が異なるため、在来工法では深さ100mの採熱システムの施工に莫大な費用がかかります。我々が研究中のシステムは、住宅新築の際に地中約10m前後の深さに埋設する基礎杭から採熱することにより、ほとんどコストアップなしに施工が可能です。すぐに実用化できる技術の開発をめざしていますので、皆様に利用していただける日も近いでしょう。

中村教授:それでは最後に、シンポジウムにご参加いただいた皆様と講演いただいた先生方に感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

■参加者アンケート

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【シンポジウムに関するご意見・ご感想・ご質問等】※一部抜粋

  • 私たちの研究を多くの方に知ってもらい、産学官民の連携を深めることで、福島の復興に2012%e7%ac%ac1%e5%9b%9e%e5%85%ac%e9%96%8b%e3%82%b7%e3%83%b3%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%82%a6%e3%83%a0image032つなげていきたいと強く思った。
  • 改めて課題があることも認識できたし、必要な技術だと感じた。
  • 今回、学生として参加して、発表後の意見交換会では企業の方のご意見などを聞くことができ、視野を広げることができた。
  • 今回のシンポジウムを通じ、改めてロハスの大切さを感じた。機械工学を学び、将来エンジニアになる者として、今までのように資源を大量に使うようなエンジニアにはなれないし、なりたくないなと思った。
  • 大学の講義では聞けない企業の方や消費者の方の声を聞くという貴重な体験ができた。今回の体験を活かせるように勉強していきたい。
  • ロハスについてさらに深く知ることができた。これらのプロジェクトを福島県でやっていることにも大きな意味があると思った。
  • 私は脱原発の賛成者ですが、風力発電の話は大変感銘した。
  • 単におもしろそうという程度で顔を出したが、いろいろな視点があることが分かり、次回も出席したいと思った。
  • 自由に意見交換できる場を、今後も続けて頂きたい。
  • 人間が自然と共生できる持続可能なエネルギー研究による社会貢献に取り組まれる日本大学の皆さんの姿勢に感動した。福島県は東日本大震災と続いて、福島原子力第一発電所事故と未曾有の災害に見舞われ、人間だけの欲求を優先するための原子力エネルギーから何とか脱却しなくてはならないと痛感している。そのためにも、日大工学部のみなさんの「ロハス」の研究が、福島の復興と再生に、福島のみならず、日本中の研究の中心となり次世代に受け継ぐことのできるエネルギーサイクルを実現されるよう願います。有意義な御講演ありがとうございました。

 第2回は10月21日(日)に「再生可能エネルギー入門~太陽光とバイオマスの可能性」をテーマに、第3回は11月23日(金)に「自立共生の住環境を支える水環境の実現を目指して」をテーマに行われました。第4回は12月16日(日)、第5回は2013年1月13日(日)に開催いたします。参加費は無料ですので、奮ってご参加いただければ幸いです。

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