医学と工学の領域を融合した生体医療工学の拠点で

新たな国内外の共同研究プロジェクトが始動

電気電子工学科の酒谷薫教授が研究代表を務める『Active agingを支援するバイオメディカル工学の研究拠点福島県の震災復興に貢献する医工連携研究‐』プロジェクトが、文部科学省『平成26年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業』に採択されました。これまで受けていた『ふくしま医療機器開発事業費補助』も継続となる他、民間企業や研究所、海外の大学との提携など、さまざまな共同研究プロジェクトが始まっています。医学と工学の領域を融合した生体医療工学の拠点として大きな幹を形成し、さまざまな研究活動の枝葉を展開しながら、成果としての実を結ぼうとしています。

 どのように医工連携研究プロジェクトが展開しているのか、酒谷教授に詳しくお話をお聞きするとともに、今後の抱負についても語っていただきました。

 

―まずはこの度、文科省の採択を受けた研究プロジェクトについて、ご説明いただけますか。

 医工連携プロジェクト2014image002研究題目にもある“Active aging”とは、高齢者が健康であり、生活の質を低下させることなく、社会参加を続けていける活動的な高齢化のことで、2002年に世界保健機構(WHO)が推奨したものです。国際的に広まっている中、日本でも2025年度問題(団塊の世代が75歳以上となり医療費や社会保障費の急増が懸念されている問題)を抱えていることから、“Active aging”の取り組みが活発化しています。我々が研究している医療工学の分野でも、これからの重要課題になると思われます。そこで本研究プロジェクトでは、独自に開発した「光脳機能イメージング技術」「光・超音波工学」「インテリジェント蛍光性核酸塩基技術」などの革新技術を利用し、医工連携を基盤として、豊かな高齢化社会を築くActive agingを支援するための新たな予防・診断・治療法の開発を目指します。それにより、高齢者の健康向上と医療産業の発展による地域の活性化と震災復興、さらにライフイノベーションによる成長戦略へ貢献することが目的です。日本大学では工学部の他、医学部・生産工学部、学外では福島県立医科大学と東京大学が参画しており、これまで蓄積してきた本学中心の医工連携体制によるバイオメディカル工学の研究開発をさらに推進することになるでしょう。また、新たに設置した臨床工学技士課程と連携し、医学と工学両分野に通じ高度な医療技術に対応できる研究者やエンジニアの養成にも力を入れていきます。

 

―その他国内外でさまざまな共同研究の連携が確立していますが。

 まず国内では、今年3月に大手半導体メーカのローム㈱との共同研究契約を結びました。癌などの初期診断に使う医療機器の開発を目的に、光学的センサー技術を駆使し、体内の癌細胞の有無や範囲を診断する技術、体内の血液循環の診断装置の開発、さらに高齢者や要介護者の見守りシステムなどに使う機器の開発を行います。

 8月には総合南東北病院などを運営する郡山市の(一財)脳神経疾患研究所との共同研究も決まりました。ローム㈱との連携に加え、平成27年度に郡山市に開所予定の県医療機器開発・安全性評価センターや県内中小企業とも連携し実用化と製品化を進めていきます。具体的には、手術中の脳や心臓の血流・血管イメージング装置の開発、癌の非侵襲診断機器の開発、認知症の早期診断法の開発、神経・リハビリテーションに関する研究開発です。

 医工連携プロジェクト2014image008またこの度、イタリアのベルガモ大学の客員教授として招聘され、臨床心理学者のAngelo Compare教授(写真右)との共同研究も始めることになりました。2年ほど前にCompare教授が私の脳機能の研究に興味を持たれ、突然メールをいただいたことがきっかけでした。その後、私がイタリアに何度か訪れセミナーを行うようになり、そのご縁で今回の共同研究の話に発展したというわけです。ベルガモ大学はイタリアの“中世の町・チッタアルタ”の古い建物を校舎に利用する州立大学で、そこでマインドフルネス・リラクゼーション法を用いて高血圧などを治療するユニークな研究を行うCompare教授とNIRS Laboratory(光のイメージング研究室)を新設し、次の研究を共同で行います。

医工連携プロジェクトimage006マインドフルネスの本態性高血圧症に対する効果とそのメカニズムに関する研究

高齢者の認知機能に対する化粧療法の効果(資生堂イタリアとの共同研究)

NIRSを中心とした脳ストレス評価システムの開発

イタリア日本ヘルスケアネットワークの研究開発

 Compare教授は文科省の支援事業での海外共同研究者でもあります。④については、郡山市との産学官連携体制でヘルスケアネットワークを構築し、新しい医療介護システムの試みとして実践していく予定です。ヘルスケアネットワークとは、ICT技術を使って高齢者一人ひとりの健康を遠隔で管理していくためのシステムです。高齢者の脳機能や血圧などの情報を家庭からデイケアセンターに送り、異常や変化がないか随時外部から見守ることができます。多くの健康情報を集めたビッグデータが必要になりますが、その情報を使って新しい予防方法や対策にも結び付けていきたいと考えています。認知症や引きこもりといった高齢者特有の病気を防ぐことに役立つ技術も開発したいですね。 

このように、さまざまな医工連携のネットワークが築かれ多角的に展開しています。私も国内外飛び回っている状況ですが、統合生体医療工学研究室のメンバーにもバックアップに奮闘してもらっています。 

 

―今後の目標をお聞かせください。

医工連携プロジェクト2014image010これまで早期発見・早期治療と叫ばれてきましたが、私たちにとって最も良いことは健康を増進し病気にならない体をつくることです。未病の原因と言われているストレスを呼吸法や化粧療法を使った非薬物療法によって低減できれば、健康増進につながるとともに、医療費の軽減にもなります。そうした予防医学という未病に対する治療方法を科学や先端技術を使って開発していくことが私たちの研究室の目標です。お話したさまざまな研究プロジェクトでの成果はそこにもつながっていきますから、さらに幹を太くして枝葉を伸ばしていきたいと考えています。

そして、こうした研究活動が復興に繋がってほしいと思っています。政府も打ち出している“地方創生”の一つの形として、福島復興モデルになればいいですね。

また、中国やアジア諸国との交流も大事になってくるでしょう。発展途上国の若者が日本で教育を受けられるようになればよいと思います。イタリアの学生もしかり。海外との交流の中で人材育成に寄与することも、我々の大きな役割だと思っています。日本が元気になるためにも、外からの刺激は必要ですし、是非とも海外のパワーを日本の若者にも注入してほしいですね。

 

―最後に学生たちにメッセージをお願いいたします。

 若い人たちには、発展した先進国の現状だけでなく、アジアなどの発展途上国にも目を向けてほしいと思います。私自身もアメリカに5年、中国に7年滞在した経験があります。日本の中に閉じこもっていては、新しいもの生み出すことも未来を切り拓いていくこともできません。先進国と発展途上国の両方をみることで、自分は何をしなければならないのかを考え、それに基づいて行動してほしいと思います。また、“復興”という言葉を胸に刻み、何かしら大切なもの得てほしいと願っています。

 

―ありがとうございます。今後ますますのご活躍を祈念申し上げます。

 

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