人を幸せにする力がある建築設計
そのプロセスと意味や役割について学ぶ

2013%e6%89%8b%e5%a1%9a%e8%b2%b4%e6%99%b4%e6%b0%8f%e8%ac%9b%e6%bc%94%e4%bc%9aimage002 日本大学工学部建築学科では、平成25年9月28日(土)に70号館7014講義室において、「設計のプロセスを語る/設計の意味と役割」と題して、建築家の手塚貴晴氏による講演会を開催いたしました。数々の大胆かつ特徴的な建築作品を世に送り出し、メディアでも注目を集める手塚氏の講演会とあって、学生約200名及び一般参加者約40名が詰めかけ、会場は満席となりました。
 講演に先立ち、建築学科主任の浅里和茂教授が「このような機会は滅多にないこと。皆さんには有意義な時間にしてほしい。それが刺激となり実になることを期待してい2013%e6%89%8b%e5%a1%9a%e8%b2%b4%e6%99%b4%e6%b0%8f%e8%ac%9b%e6%bc%94%e4%bc%9aimage004ます」とご挨拶されました。続いて、建築学科の湯本長伯教授が講演の趣旨と手塚氏のプロフィールを紹介。現在東京都市大学特任教授でもあり、その前身であった武蔵工業大学工学部建築学科を卒業された手塚氏。日本建築学会賞をはじめ、名だたる賞の受賞経歴や海外での活躍を紹介するとともに、湯本教授は、「今、最も旬な建築家であり、建築設計の力を信じている素晴らしい方をお迎えしました」と、講演の趣旨を述べられました。そんな賛辞の言葉と会場からの温かい拍手に迎えられ、手塚氏がいよいよステージに登場。爽やかな笑顔によく似合う、トレードマークとなった青いTシャツ姿の手塚氏の講演は、その色についての話から始まり、同じく建築家であり妻である由比氏やお子様の話へと続きました。幸せそうなご家族の写真を紹介しながら、「建築家の目的は建築をつくることではなく、つくって人を幸せにすることである」というご自身の建築に対する考えを述べられた後、建築設計の意味と役割は何かという本題へと入っていきました。

 

満足度100%ではなく、お気に入り度120%の建築とは!?

2013%e6%89%8b%e5%a1%9a%e8%b2%b4%e6%99%b4%e6%b0%8f%e8%ac%9b%e6%bc%94%e4%bc%9aimage006 まず、手塚氏が手掛けられた建築作品である『屋根の家』が紹介されました。リビングを屋根の上につくったことで、建築業界のみならず世間を驚かせた住宅であり、最も世界で紹介された建築物の一つでもあります。手すりがない屋根は違法ではないかという苦情が来るなど、賛否両論が飛び交った『屋根の家』を例に挙げ、手塚氏は、「どういう家を建てるかではなく、施主がどういう生活をしたいのかが重要である」と強調されました。また、「住んでいる人を守る、都市(街)を守ることも大事」だと話されました。
 2013%e6%89%8b%e5%a1%9a%e8%b2%b4%e6%99%b4%e6%b0%8f%e8%ac%9b%e6%bc%94%e4%bc%9aimage008次に紹介されたのは、「ふじようちえん」。この作品は、日本建築学会賞(作品賞)をはじめ、建築及びデザイン関連の賞を数多く受賞し、OECDにより世界33 か国から推薦された166 プロジェクトの中から最も傑出した学校施設好事例にも選ばれています。子どもの回遊性に着目しウッドデッキにした楕円のドーナツ型の屋根が特徴的な作品です。もともとあった3本のケヤキを屋根を貫通させて残す設計については、手塚氏も苦労された点だと話しています。また、通常設置される遊具を一切置かないというのも、こだわりの一つ。ドーナツ型の屋根の上を楽しそうに走り回る園児たちの動画を見せながら、子どもが本来持っている能力を引き出したり閉じ込めたり、建築がつくり出す環境が大きな影響を与えることを示唆しました。
 その他、新潟県の豪雪地松之山の山中に建てられた教育研修施設『森の学校キョロロ』や津波で被害を受けた樹齢350年の大きな杉で建てられた『南三陸あさひ幼稚園』、小児がん専門治療2013%e6%89%8b%e5%a1%9a%e8%b2%b4%e6%99%b4%e6%b0%8f%e8%ac%9b%e6%bc%94%e4%bc%9aimage010施設『チャイルド・ケモ・ハウス』などの素晴らしい作品も紹介していただきました。「施主さんによく言われるのは、“手塚さんに頼むと100%満足しなくても、120%お気に入りのものができる”」という言葉のように、どの作品にもその建築物を使う人を思い遣る手塚氏の人柄が感じられます。ユーザーにやさしい建築の設計プロセスは、技術としてだけでなく、建築家としてどうあるべきかを示しています。学生たちは、手塚氏の一つひとつの言葉に重みを感じながら、心に刻んでいるようでした。

 

たくさんの経験が人間としての厚みになる

 第二部の質疑応答では、コメンテーターとして日本大学短期大学部の山﨑誠子准教授も登場。手塚氏の大学の先輩であり、『ふじようちえん』や『チャイルド・ケモ・ハウス』で一緒にお仕2013%e6%89%8b%e5%a1%9a%e8%b2%b4%e6%99%b4%e6%b0%8f%e8%ac%9b%e6%bc%94%e4%bc%9aimage012事をされた仲ということもあり、参加者と手塚氏のやり取りを大いに盛り上げてくださいました。
 最初の質問は、仙台から来た高校生。「建築を目指したきっかけや名言、人などがいれば教えてください」という質問に対し、手塚氏は「きっかけではなく、人生の中でチャンスの波が来たとき、飛びつく瞬発力があるかどうかが大事」だと説きました。そして自分のいる場所を常にベストな環境と思い楽しむことの重要性を話されました。
 続いて、もっと話を聞きたかったという工学部建築学科2年の学生が「これまで読んできた本や建築家で一番影響を受けたのは」と質問。手塚氏は自身が影響を受けたさまざまな本や人物について紹介してくださいました。その話を聞きながら、学生たちは自分もあやかりたいとばかりに必死にメモを取っていました。
2013%e6%89%8b%e5%a1%9a%e8%b2%b4%e6%99%b4%e6%b0%8f%e8%ac%9b%e6%bc%94%e4%bc%9aimage014 「アイデアが煮詰まったとき、どう乗り越えるか」という工学部建築学科3年の学生からの質問に対しては「運動したり、旅をする」とアンサー。山﨑氏も「ネットで情報を収集するより、外に出た方がもっと良い刺激が得られる」とアドバイスしました。また、学生時代に自転車で日本中を旅して周った経験を持つ手塚氏は、「たくさんの経験をしてほしい。それが人間としての厚みになる」と諭しました。
 遙々大阪から駆けつけた建築学科の卒業生にも質問のチャンスが巡ってきました。「施主が本当に望んでいるものを具現化するときに心がけていることは」という質問に、「人の話をよく聞くこと、相手の持っているものを引き出すのが大事。さらに言われたことをやるのではなく、それを超えるものを見つけられるかに掛かっている」と答える手塚氏。卒業生も真剣な眼差しで耳を傾けていました。
 最後に、建築のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した妹島和世氏とのエピソードや都市の在り方についてお話いただきました。これまで語られたことのない手塚氏の考え方や人となりに触れ、建築設計の世界を存分に堪能した講演会は、手塚氏への感謝の気持ちを込めた会場からの惜しみない拍手が響きわたる中、幕を閉じました。

 

学生にとって貴重な体験となった手塚氏との懇談会

2013%e6%89%8b%e5%a1%9a%e8%b2%b4%e6%99%b4%e6%b0%8f%e8%ac%9b%e6%bc%94%e4%bc%9aimage016 その後、手塚氏のご厚意により、建築学科の学生との懇談会を70号館9階多目的ホールにて行いました。世界が注目する建築家を目の前にして、緊張気味の学生たちでしたが、湯本教授と山﨑准教授にも加わっていただき、和やかな雰囲気で会が進んでいくと、学生たちも質問や自分の考え、意見を述べるなど、話の輪の中に解け込んでいきました。コンペの秘話から旅のエピソードまで、手塚氏の人生観や建築家としての信条、またこれまで知らなかった建築の世界の話を聞きながら、ともに笑ったり共感したり感動したり、学生たちにとって大変有意義な懇談会となりました。手塚氏は、人との出会いが大切であることや建築の専門知識だけでなく本を読んだり、旅をしたり、幅広い世界に視野を広げ学ぶことが大事だと教授されました。
 「自分も自転車で旅しているので、勇気づけられました。世界のいろいろな土地に建築物を建てるのが夢です」と話す学生。被災した地元気仙沼の復興に携わりたいという学生は、「津波を忘れないようにと考えられた意匠設計に感動しました。今日の話が刺激になってこれから設計する際に活かされていくと思います」と話していました。参加した卒業生も「社会に出てからも勉強ですが、学生のうちにこのような貴重な話を聞けるのは大変良い機会。私たちも社会で経験したことを後輩たちにフィードバックできるようにしていきたい」と抱負を語っていました。
 手塚氏のメッセージは、建築家を目指す学生たちへのエールとして、記念撮影の写真とともに、貴重な宝物になることでしょう。
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